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  • 08/21/20:02

11.05.23:22

小説 ~Lover Shakers~ autumn season Vol.1 その22

 今日4回目、そしてRichardにとってはラストチャンスとなるステージは、ロイ・オービソンの”プリティ・ウーマン”から始まった。1990年公開の、リチャード・ギア、ジュリア・ロバーツ主演の同名映画で有名な曲だ。直美達も同じ理由で知っているらしく、「聴いた事ある」だとか、「あの映画の曲だよね」などと言って盛り上がっている。そんな彼女達に送り出されながら、僕達三人は、ステージへと飛び出した。
 日付変更線を目の前にしたフロアは、程良く空いている。僕達三人の他は、おなじみマジックトーンズの4人と、あとは酔っ払いダンサーが2、3人だけだ。
 Richardは最後の見せ場とばかりに、マジックトーンズのみならず、僕とMickyとまで張り合うように、ステップを踏んでいる。僕とMickyは、そんなRichardを引き立てるように、少し後ろに陣取ってステップを踏んだ。
 ”プリティ・ウーマン”に続いては、ジョニー・シンバルの”ミスター・ベースマン”、ジーン・ピットニーの”ルイジアナ・ママ”、ニール・セダカの”素敵な16才”と、定番とも言えるポップス・ナンバーのオンパレードのうちに、前半が終了した。
 いつもなら、僕達にとってインターバルであるスローナンバーの時間だが、今日、いやこのステージばかりは、これからが本番だった。
 席へと戻る間、さすがのRichardも緊張気味だ。
「いけそうか」
 Mickyが、囁くような声で、それでいて力強く問いかけた。
「あぁ。もちろん」
 Richardはまるでリングへ向かうボクサーのように、強張った表情のままに、力強く返した。
「そう。大丈夫だ」
 僕も、セコンドのように、Richardの後押しをした。


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11.01.23:39

小説 ~Lover Shakers~ autumn season Vol.1 その21

 Mickyの言葉に、俄然勇気の湧いたRichardは、今まで以上にパワフルだった。会話も由美子だけではなく、全員を巻き込み、まさにリトル・リチャードの”キープ・ア・ノッキン”や”ジェニ・ジェニ”を聞いているようなハイテンポ、ハイペースで喋り続けている。まさに息継ぎなしといった感じだ。
 ただ、電車の関係で彼女たちは次のステージを最後に、帰らなくてはならない。僕達も、そろいもそろってアルコールが入っている為、送るわけにもいかないからだ。
 つまり、Richardにはもう時間が無い。チークに誘うチャンスは一度しかなく、もしあの戯言が真実であれば、告白するチャンスは、その時をおいて他には無い。まさか、全員の前で告白するわけにもいかないし、ステージ終了後では、告白の為に割けるほどの時間的余裕が無い為だ。
 恐らく、今こうして喋っている間にも、Richardの頭の中では、その事で一杯の筈だ。その証拠に、時々話が支離滅裂になっている時がある。先入観無い、またはRichardの事を余り知らない人が見れば、ただ単に酔いが回ってきたのだろうと、感じるだろう。だが、Richardがこれしきのアルコールで参る訳が無い。明らかに、話に集中していないのだ。
 僕とMickyは、今こそ手助けが必要な時とばかりに、そんなRichardの話に、援護射撃を送りつつ、ステージの到来をいまや遅しと待っていた。



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10.29.23:11

小説 ~Lover Shakers~ autumn season Vol.1 その20

 ステージが終わり、席に戻った僕は、当然のごとく皆の冷やかしの的となった。その矛先は、当然直美にも向けられたが、まんざらでもなさそでいて、どこかはぐらかした感じで受け答えしている。僕はと言うと、すっかり舞い上がってしまって、正直何を話していたのかおぼえていない。酒とタバコの量が、倍増したせいもあるだろうが。

 三回目のステージが終了しても、いまだRichardは由美子をチークに誘っていない。はたから見ている分には、Richardはもちろんの事、由美子も終始笑顔で、それほど雰囲気は悪いとはいえないし、いつものRichardなら、一度断られたとしても何度でも挑戦するぐらいの、押しの強さを発揮しているはずだ。自分が誘ってみて良い結果が出た事もあって、その疑問は膨らむ一方だった。
 ちょうどトイレに行くタイミングが一緒になったこともあって、僕はその疑問を、Richardにぶつけてみる事にした。
「何か、変だ」
 僕が疑問を口にする前に、Richardがそんな事を言い出した。
「何かって、何が?」
「いや……。何て言うか、隙が無いと言うか……」
「別に、見た目には、いつも通りだと思うけど……」
「いや。やっぱり変なんだ。何がどうと聞かれても分からないけど」
 そこへ、Mickyもやってきた。どうやら、僕達の会話を少し前から聞いていたらしく、Mickyはこんな事を口にした。
「いつもと違うというのは、ある意味いい傾向かもよ。今までこれで良いと思ってて振られてきたんだから」
 さすが彼女持ちは言う事が違う。僕は素直にそう感じて、心の中で喝采を送った。Richardの表情もいくらか、明るさが戻ったようだ。
「そうかな。実は、いけてるって事?」
「まあ、あくまでそういう考え方も出来るって言う話だけど。それほど由美子の事、知ってるわけじゃないし」
 余りに現金なRichardに、Mickyは予防線を張るように、言い訳がましい口調になった。だが、急に楽観的になったRichardの耳には、届いていないらしい。
「俺、今日告白しようかな……」
 そんな、とんでもない事まで口走っている。ここまで高低差が激しいと、驚いたり、呆れたりするより先に、笑えて来る。ただ、次に出た言葉には、少々ムカッとした。
「Jerryでさえ、上手く行ったんだし」
 

 



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10.27.23:10

小説 ~Lover Shakers~ autumn season Vol.1 その19

 演奏の終了とともに、拍手が湧き起こった。直美がすこし潤んだような瞳で僕を見ながら、ゆっくりと僕の手の中から離れた。直美の手は少し名残惜しそうに、僕の肩から離れたようにも感じた。
 僕は目だけで合図しながら、ゆっくりと直美と並んで席へと歩き出した。直美は少し後ろをついてきている。予想していた、ふざける様な仕草も、言葉も直美からは出てこなかった。僕の希望的観測を差し引いても、二人はまるで、チークタイムでお互いの気持ちを確かめ合ったような仲に思えた。僕の心臓は激しく脈打ち、弛緩しそうな顔を引き締める為に、全神経を集中していた。
 直美を席に送り届けた後、MickyとRichardと共に、再びステージへ戻った。戻る間中、二人に小突き回されたのは言うまでも無い。それにもかかわらず、もう僕の頬は緩みっぱなしだった。
 ラスト三曲の最初のナンバーは、チャビー・チェッカーの”レッツ・ツイスト・アゲイン”、続いてカール・パーキンスの”ブルー・スウェード・シューズ”と来て、最後はジェリー・リー・ルイスの”火の玉ロック”だ。
 この曲が、僕のお気に入りだという事は、前にも述べた通りだ。ジェリー・リーには、この”火の玉ロック”という曲と同名の伝記的映画が、デニス・クエイド主演で1989年に出ている。ジェリー・リー好きの僕は当然チェックしており、その劇中において、この曲を演奏中のジェリー・リーが、”火の玉ロック”を演奏中に、後に妻となるマイラ演じるウィノナ・ライダーに、ステージの上から”I Love You”と囁くシーンがある。僕はそのジェリー・リーさながらに、踊りながら直美に目をやり、同じように囁いて見せた。もちろん直美に聞こえるわけはないし、照明を落とした店内では、僕の口の動きさえ確認する事はできないだろう。だから、これは僕の浮かれた心を発露する為だけの行為でしかない。だが、確かにその瞬間、僕と直美の視線は絡み合っていたように思える。僕の心が、完全に直美を好きだと確認した一瞬でもあった。


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10.23.23:19

小説 ~Lover Shakers~ autumn season Vol.1 その18

 今、直美は僕の腕の中にある。彼女の温もりと、柔らかな感触が、僕の手のひらから、心地よい安らぎを運んでくれる。
 驚くべき事に、彼女は拒否する事もなく、ぼくの動きに合わせて、ゆったりと、それでいて少々危なっかしく、ステップを踏んでいるのだ。
 ここまでくると、直美が口にした突然の否定的意見も、彼女なりの僕に対するアプローチだったのではないかといった、自惚れと、自意識過剰に満ちた妄想さえ生まれてくる。今日の僕は、盆と正月と、誕生日とクリスマスと、宝くじの一等前後賞と万馬券が、一度にやってきたような感じだ。
 恍惚と、浮遊感に似た幸福に包まれながら、上手く行き過ぎているこの状況に、一抹の不安を覚えていた。人間、あまりにも順風満帆に過ぎると、何かの間違いではないかと疑ってしまうものだ。僕の不安は、その類のものだった。
 不安を覚えた事で、逆に冷静になった僕は、この状況や、これまでの行動が照れ臭くなり、どうにも直美の顔を注視する事ができず、さりげなく視線をそらした。
 視界に飛び込んできたのは、隣でチークを踊っている老夫婦だった。老夫婦は微笑ましそうに僕を見ていたらしく、そのにこやかな目と僕の視線が交差した。恐らくは、自分たちの青春時代と重ね合わせて、甘酸っぱい思い出を振り返りながら見ていたのだろう。そして、今この時だけは、この老夫婦もその時代に戻って楽しんでいるのかもしれない。僕が軽く会釈をすると、ご婦人がささやかに手を振りながら、何かを囁く様に僕に言った。聞き取る事は出来なかったが、その口元からして、「がんばってね」と言ったのだと、僕は理解した。
 
 

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