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  • 05/16/09:25

11.09.23:32

小説 ~Lover Shakers~ autumn season Vol.1 その23

 緊迫した僕達とは対照的に、ステージの上では、男女ヴォーカルのお気楽なMCが始まっている。すでにダンスフロアで待機しているカップルも、席に着いたままのカップルも、僕達ほどの緊張感は孕んでいないだろう。
 そんな緊張感を悟られまいと、僕はなるべくさり気無く、そしてRichardの邪魔にならないように、席に着き、ポールモールに火をつけた。Mickyも普段と変わらない所作で席に着き、グラスを傾けている。
 問題のRichardはというと、席に着こうともせず、それでいて由美子に声を掛ける訳でもなく、自分の椅子の前で立ち尽くしている。見ようによっては、緊張感に耐えかねて思考回路が完全停止しているようにも見えるし、声を掛けるタイミングを計っているようにも見える。それでも僕とMickyは、あえて助け舟を出すようなまねはしない。それはひとえにRichardを信じているからであり、またRichardの渾身の一言に水を差すような事態を避けたかったからだ。
 そして、その時はやってきた。
 Richardはこれまでのある意味道化染みた態度や言葉遣いを一変させ、真摯な表情で由美子の名を呼び、彼女が振り返ったと同時に、思いの丈を一気に、そして冷静に吐き出した。
「共に過ごしたこの夜も、このステージで最後だ。この素晴らしい夜の最後を飾る為に、どうか一緒に踊ってほしい」
 Richardの生真面目な、ある意味キザな台詞に、感嘆の吐息を僕達が漏らす中、由美子はまるで待っていたかのように立ち上がると、Richardの差し出した手をとって、小さく頷いた。この時、僕とMickyは、五年来のRichardの恋の成就を、九分九厘確信していた。
 Richardと由美子がダンスフロアへと向かう中、女性ヴォーカルが紹介したスローナンバーは、ミーナの”砂に消えた涙”。この曲はもともとイタリア語の歌詞だが、日本語で歌われる事もあって、無学な僕が聞いても、明らかに失恋の歌だと分かる。こんな時に、何もこんな曲を選択しなくてもという思いを抱きつつ、僕は嘆息と共に煙を吐き出しながらRichardを見送った。


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*この小説はフィクションです。登場する人物・団体名は架空のものです。
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