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08.21.14:51

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  • 08/21/14:51

11.28.23:20

小説 ~Lover Shakers~ autumn season Vol.1 その27

 まるで芋虫が起き上がった様な姿の僕達に、Richardは曖昧な笑みを浮かべながら、こう続けた。
「由美子が、結婚するんだ」
 僕とMickyは、再び同時に、今度は肩を落とした。僕の常識と言うか、恋愛感からして、それは最終審判に等しい。結婚とは、恋愛の最終到達点、つまりはゴールである。ついに引導を渡されたと言ったところだ。本当はそうではないのかもしれないが、成人したばかりの若造である僕の浅墓な常識としてはそうなのだ。もう二度と、Richardの手の届かないところに、由美子は行ってしまったのだ。
 想いを抱き続ける事すら許されない。
 それは、どんな心境なのだろう。自分の立場に置き換えて想像する事すら、不可能だった。今は、まだ、余りの衝撃に、かえって現実味が薄いのかもしれない。しかし、時が経つにつれてしだいに、覆す事の出来ない事実として、Richardに襲い掛かるだろう。その時、Richardがどうなってしまうのか。考えただけでおぞましい。気が狂ってしまうのではないかと、僕は本気で心配していた。
「もう、諦めるのか?」
 僕の頭の中では、質問にすらなりえない、ある意味、傷口に塩をすり込むような言葉を、Mickyは平然とした顔で、すらりと言ってのけた。
 Richardも面食らった様子で、しばらくMickyの目を黙って見ていた後、少しイラついた様な表情になった。
「しょうがないだろ。結婚するんだから」
「聞き方が悪かった。諦められるのか?」
 余りに淡々とした、Mickyの問いかけに、Richardが怒り出しはしないかと、僕は落ち着き無く二人の顔を交互に見た。
「だぁかぁらぁ。結婚するんだぜ。諦められないも何も無いだろう!」
 さすがに掴み掛かるとまでは言わないが、Richardの目には明らかに怒気が含まれている。これ以上Mickyが不用意な事をいえば、許さないといった感じだ。

 


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*この小説はフィクションです。登場する人物・団体名は架空のものです。
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11.22.22:40

小説 ~Lover Shakers~ autumn season Vol.1 その26

 いつものように、三人で僕の車に乗り込み、フォルクスワーゲンタイプ2のオプション装備である燃焼式のヒーターを焚き、寒さに備えて積み込んでおいた寝袋と毛布にくるまった。
 でも、僕の胸に詰まった有毒ガスのような嫌な気分が眠気を阻害して、とても眠れそうになかった。三人とも相変わらずの無言だが、恐らく誰一人眠っては居ないだろう。僕でこの調子なのだから、当事者であるRichardの心中は察して余りある。だが、やはりそんなRichardにかけるべき言葉も見当たらず、見開いた目で天井を見ているしかなかった。こんなときに頼りになるはずのMickyも、今回ばかりは適当な言葉を探し当てる事ができないらしい。
 しかし、なぜ女と言う生き物は、ああいう場面で泣くのだろうか。泣きたいのはむしろ、振られた側だと言うのに。気持ちに応えられない申し訳なさからだろうか。それとも、自分に振られる相手の事が不憫に思えて泣くのだろうか。はたまた相手に何も言わせないためのポーズなのだろうか。いろいろ仮説を立ててみたが、どれもしっくりとこない答えばかりだ。

「結婚するんだ」
 Richardが、突然ボソリと呟いた。突然の、そして突拍子のない言葉に、僕とMickyはほとんど同時に上体を起こした。



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11.21.00:00

小説 ~Lover Shakers~ autumn season Vol.1 その25

 僕達の夜は終わった。
 まだダイアナの閉店時間までは、二時間近くあったが、とても残る気にはなれなかった。由美子達を送り出した僕達は、しばらく押し黙ったまま、席に着いていたが、Mickyの「帰ろうか」と言う言葉にはじかれる様にして、店を出たのだった。

 店の外は、早くも冬の到来を予感させる、肌を刺すような風が吹き荒れている。その中を、終電を目指す人々が、自らの人生を表現しているかのように、足早に通り過ぎてゆく。少し離れたところでは、酔いつぶれた中年男性が、人生の終焉を迎えたかのように、座り込んでいる。時折耳に入ってくるのは、苛立ちにまみれた車のクラクションと、自分の将来を悲観する者たちが上げる、悲鳴にも似た高笑いばかりだ。
 どれもこれもが、今夜の僕達の心情を映し出しているかのようで、何も言葉が出ない。いつもと同じ道にもかかわらず、どこか見知らぬ間道へと迷い込んでしまったかのようだった。
 僕もMickyも、Richardに何も聞かないし、何も言わない。Richardの告白の結末は、その後の彼の態度と、最後まで涙を見せていた由美子の姿が、全てを物語っている。そんなRichardに掛ける言葉などないし、それ以上知りたいとも思わない。
「良かったじゃないか。直美と上手くいったんだろ?感謝しろよ」
 Richardが、あのチークダンス以来、初めて口にした言葉が、それだった。正直、Richardには感謝しているし、別れ際に、直美から「また連絡するね」という言葉をもらった以上、確かに上手くいっていた。だが、僕にとって、彼女と過ごした時間は遠い過去の出来事のようで、今は正直それほど嬉しくはない。その為、僕の返事は、トーンの低いものになった。
「あぁ。ありがとう」
「なんだよ。俺の事なら気にせず、素直に喜んでいいんだぜ」
「ほら、よく言うじゃないか。『終わり良ければ全て良し』って。つまり、終わり悪けりゃ、全て駄目ってことさ」
「悪かったな。振られて……」
 Richardの言葉から初めて、告白の失敗が語られた事に、僕は少し動揺した。故意に、その方向に話を持って行った訳ではなかったからだ。
「そう言う意味じゃないよ。ただ、本当に嬉しい事は嬉しいんだけど……。ごめん。上手く言えない」
 再び僕達に、沈黙の時間が訪れた。



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11.12.23:18

小説 ~Lover Shakers~ autumn season Vol.1 その24

 失恋女性の哀切極まりない感情を吐露する歌詞の中、それでもRichardは満足げに、そしてやや控えめに、愛する由美子をその腕の中に抱いている。
 僕は当初、Richardにあやかって、もう一度直美とチークを踊ろうなどと、野暮な考えを抱いていたが、今はもうそんな思いは消滅していた。Richardの心底幸せそうな顔を見ただけで、何か満たされたような気分になったからだ。
 僕はRichardの様子を伺いつつ、グラスを傾け、ポールモールを吸いつづけた。
 Richardと由美子の視線が絡み合い、Richardの口元が動く。いよいよ、Richardの告白が始まったのかもしれない。
 その直後、離れている僕にもはっきりと分かる異変が、由美子に現れていた。視線を足元に落とし、小さく肩を震わせながら、Richardの肩に触れていた手を、自分の目元へと移した。泣いているのは、一目瞭然だった。
 Richardに良くない事が起ころうとしている。”砂に消えた涙”の歌詞になぞらえた様な不幸が、Richardに降りかかろうとしている。由美子の流している涙は、断じてRichardが変わらずに自分を愛してくれている事に対する、感動の涙では無い。それどころか、その想いに対する申し訳なさの表れとしか思えない。
 Richardの表情は、困惑に溢れ、それはやがて悲嘆へと変わってゆく。
 Richardのそんな姿を見ているうちに、僕は、由美子に対する怒りが沸々と湧いてくるのを感じていた。
 想いに応える気が無いのなら、何故由美子は誘いに乗って、此処へ来たのか。
 彼の愛情の深さを知りながら、彼に愛情を感じる事ができないのなら、なぜ笑顔で接し続けるのか。
 どこまで純真な心を、弄べば気が済むのか。

 二人はすでにステップを踏む事さえ忘れて、ただただダンスフロアの端に立ち尽くしていた。それでもRichardは、泣き続ける由美子の背中を優しく摩りながら、顔だけはやや上に向けて、虚空を眺めている。由美子はずっと肩を震わせながら、何事か呟き続けていた。


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11.09.23:32

小説 ~Lover Shakers~ autumn season Vol.1 その23

 緊迫した僕達とは対照的に、ステージの上では、男女ヴォーカルのお気楽なMCが始まっている。すでにダンスフロアで待機しているカップルも、席に着いたままのカップルも、僕達ほどの緊張感は孕んでいないだろう。
 そんな緊張感を悟られまいと、僕はなるべくさり気無く、そしてRichardの邪魔にならないように、席に着き、ポールモールに火をつけた。Mickyも普段と変わらない所作で席に着き、グラスを傾けている。
 問題のRichardはというと、席に着こうともせず、それでいて由美子に声を掛ける訳でもなく、自分の椅子の前で立ち尽くしている。見ようによっては、緊張感に耐えかねて思考回路が完全停止しているようにも見えるし、声を掛けるタイミングを計っているようにも見える。それでも僕とMickyは、あえて助け舟を出すようなまねはしない。それはひとえにRichardを信じているからであり、またRichardの渾身の一言に水を差すような事態を避けたかったからだ。
 そして、その時はやってきた。
 Richardはこれまでのある意味道化染みた態度や言葉遣いを一変させ、真摯な表情で由美子の名を呼び、彼女が振り返ったと同時に、思いの丈を一気に、そして冷静に吐き出した。
「共に過ごしたこの夜も、このステージで最後だ。この素晴らしい夜の最後を飾る為に、どうか一緒に踊ってほしい」
 Richardの生真面目な、ある意味キザな台詞に、感嘆の吐息を僕達が漏らす中、由美子はまるで待っていたかのように立ち上がると、Richardの差し出した手をとって、小さく頷いた。この時、僕とMickyは、五年来のRichardの恋の成就を、九分九厘確信していた。
 Richardと由美子がダンスフロアへと向かう中、女性ヴォーカルが紹介したスローナンバーは、ミーナの”砂に消えた涙”。この曲はもともとイタリア語の歌詞だが、日本語で歌われる事もあって、無学な僕が聞いても、明らかに失恋の歌だと分かる。こんな時に、何もこんな曲を選択しなくてもという思いを抱きつつ、僕は嘆息と共に煙を吐き出しながらRichardを見送った。


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