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  • 08/22/01:49

10.22.23:29

小説 ~Lover Shakers~ autumn season Vol.1 その17

「チークダンスって、そんなに良いものなのかしら」
 直美得意の、否定的な意見だ。だが、かえってこの言葉が、僕の心に火をつけた。
 もし直美が、かっこいい男の子と踊ってみたいだとか、羨ましいだとか、肯定的な意見を言ったのであれば、これほど僕の心は奮い立たなかっただろう。直美の言葉は、ある種、このダイアナを、オールディーズを、ダンスを、そしてそれらを愛してやまない僕を、否定する言葉のように、僕には聞こえた。
 その言葉に反発する僕が、直美に対する愛情や、事の成否をも超越して、そうする事がさも当然であるかのように、立ち上がらせていた。すこし椅子に足元を取られ、ふらついた僕に、五人の視線が一斉に集まる。
 この男は、これから何をしようというのか。僕に向けられた十個の瞳には、そういう懐疑的な意思がありありと見て取れる。今までの僕なら、この時点で意気消沈して、トイレに言ってくるだとか、タバコを買いに良くだとか、ありふれた言い訳を口にして、その場を立ち去っていただろう。
 だが、僕の手はすでに直美の前に差し出され、僕の双眸は彼女の瞳を的確に捉えていた。そして僕の口は、脳裏に鮮明に映し出された、今口にすべき言葉を飛び出させる瞬間を待ちわびている。
「そこまで言うなら、試してみるか」
 僕の意外な行動にあっけにとられ、彼女は返事をしかねている。僕の視界には入っていないが、恐らく他の四人も、僕の突然の暴挙に、訝しげな表情を浮かべている事だろう。だが、そんな四人を尻目に、僕はもう次の行動に出ていた。直美の手をとり、目はダンスフロアだけを捕らえたまま、ぼくは大股で歩き出していた。


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10.21.22:56

小説 ~Lover Shakers~ autumn season Vol.1 その16

 集中するとは言っても、僕の恋に駆け引きなど存在しない。そう言ってしまえばかっこよく聞こえるが、本当のところはそう言う事に頭が回らないのだ。押したり引いたりといった、まどろっこしく、しかも自分の気持ちを抑えなければならない行動と言うのが、元々不向きなのかもしれない。
 ダイアナ・ロスは、♪Can’t hurry love~恋はあせらず~♪と歌っているが、すでに走り出してしまった僕の恋心は、彼女の気持ちを確かめたいと、すでに先走り気味だ。
 確かに、これまでの展開としては申し分ない。彼女は終始にこやかだし、会話も滞りなく続いている。その何処にも無理は感じられない。第一、いくらRichardが、由美子との二人の世界を作ろうと頑張っている為とはいえ、直美はなにも僕とだけ話さなければならないと言う事は無いのだ。何しろ、それは男共の思惑であって、女性陣は、そんな事はこれっぽっちも考えていないはずだ。それに、Richardでなくても、Mickyもいるのだ。にもかかわらず、僕と直美もまた、ほとんど二人だけで会話をしている。
 これは、もしかすると、もしかする。そう考えても、不思議ではない展開だった。過去に、僕と直美の間に何も無かったのであれば、迷わず僕の頭脳は、そう言う答えを弾き出していたはずだ。
 だが事態は、そう単純ではない。僕には、直美に振られたと言う、無視出来ない事実が、まるで踏破不可能な、それでいて絶対に回避不可能な断崖の様に立ち塞がっている。この恋に立ち向かうのであれば、この問題を無視する事は不可能なのだ。
 僕が、そんなくだらない事に思考回路の全てを動員している間に、バンドのMCは終わりを迎えようとしていた。どうやら、先走る心とは裏腹に、このステージで、直美をチークに誘うという暴挙には出れそうにも無い。残念半分、安堵半分という心境の僕の耳に飛び込んできた次のナンバーは、パーシー・スレッジの”男が女と愛する時”。僕は、少々がっかりした。どうせ踊るならこの曲というリストの中に、この曲が入っていたからだ。
 そんな時、直美の口から、これまでに無い意外な言葉が飛び出したのを、僕は聞き逃さなかった。

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Ninja Blog AXS

10.06.23:06

小説 ~Lover Shakers~ autumn season Vol.1 その15

 ダンスフロアでは、ダンスにかこつけて抱き合った余韻を楽しみつつ、次に演奏されるスローナンバーを、心待ちにしているカップルたちが、体を寄せ合っている。路上では恥知らずと罵られそうなそんな光景も、この場所では、不思議な魔法によって、ありふれた光景へと転化される。
 正直に言えば、今の僕はあのカップルたちを羨ましく思っている。どんなに気持ちを押し隠しても、どんなに自分の心を誤魔化そうとしても、直美とあの場に立っていたいという気持ちは、どうにもならないらしい。今の僕の思考は、いかにして直美を誘おうかと言う事に終始している。その成否の行方も然りだ。 夜毎ドラマティックな事が起こるわけではないこの店だが、今日ばかりは例外のようだ。
 今日は、Richardの恋を応援するつもりだったが、自分の昔の恋にまで飛び火して再燃する羽目になろうとは、思っても見なかった展開だ。もっとも、Richard自身も、僕達の追い風を期待していたわけではなく、頭数合わせの為だけに同席させただけのようなので、それほど罪悪感は無い。
とりあえず、僕は恐らく恋であろうこの状況に、集中する事に決めた。


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10.02.22:56

小説 ~Lover Shakers~ autumn season Vol.1 その14

 静かに時間だけが流れてゆく。ダンスフロアでは、数名のカップルが、ある者はふざけあいながら、ある者は固く抱き合いながら、またある者は、熱い視線を絡ませながら、この夜を楽しんでいる。
 僕達は、その光景というよりは、それらを包み込んでいるダンスフロアと、彼らのために切なげなメロディーを演奏するバンドをただぼんやりと見ていた。スローナンバーに関して言えば、僕はこうしてぼんやりと演奏に耳を傾けるのも嫌いではない。もちろん、大好きな子とチークを踊る事ができれば、それに勝るものは無いが、恋愛感情と言うもの自体がご無沙汰な僕にとっては、そんな事は皆無に等しい。

 拍手が湧き起こり、曲が終わった。僕も手をたたきながら、そっと直美の表情を伺った。彼女は穏やかな笑みをたたえたまま、軽く拍手をしている。その笑みが意味するものは、僕には分からない。ただ、彼女にとっては一風変わっているであろうこの店を、それなりに楽しんでいるようではあった。
 バンドのMCがはじまり、それまで薄暗かった店内が、一変して光に包まれた。それとともに、頬をやや赤く染めた直美の横顔が、映える。ぼくは、思わず目をそむけた。このまま見続けてはいけない気がしたのだ。
 店内がそれとともにざわつき始めたのをいいことに、Richardは再び由美子に、マシンガントークをはじめている。由美子は嫌な顔一つせずに、Richardの話を聞いている。なかなかいい雰囲気で、何も知らない他人が見れば、十分恋人同士に見えるだろう。だが、これは高校時代にも、十分見られた光景でもあった。
 友達以上、恋人未満。
 何かのCMで聞いたその言葉が、今の二人にはぴったりな気がした。その中途半端な関係を打破出来るかどうかは、Richardの腕次第である。

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09.29.23:41

小説 ~Lover Shakers~ autumn season Vol.1 その13

 Richardは僕の予想に反して、あっけないほどすんなりと由美子の隣に腰を下ろした。その顔には微塵の迷いも無い。まだ、誘って踊ってくれるほどの手応えを、感じなかったのだろうか。Richardにしては慎重な気がする。普通なら、冗談交じりにでも、一度誘ってみるだろうからだ。
 僕も直美の隣に腰を下ろすと、グラスに半分ほど入っていた水割りを一気に飲み干し、ポールモールに火をつけた。
  荘厳とも言えるオルガンの響きが、聴く者の奥底にしまってある哀愁という感情を、否応無く引き出してくる。僕にしても、その例外ではない。直美が隣に居る事もあって、思い出すのは、あの告白の事だ。何か見えない力で心の核になる部分を締め付けられ、僕は為す術も無く大きく煙を吐き出すと、その紫煙の行方を力ない目で追っていた。
「汗ぐらい拭きなさいよ」
 モノトーンな、暗い過去の世界に引きずり込まれそうになった僕を、鮮やかな現実に引き戻してくれたのは、他ならぬ直美だった。その口調とは裏腹に、どこかやさしさを感じるその声。 まだ力の入らない眼差しを直美に向けると、その手にはハンカチが握られていた。
 僕は直美に礼を言いつつ、ハンカチを受け取り、汗を拭う。ハンカチからほのかに香るのは、間違いなく洗剤に入っている香料が発するものなのだろうが、僕にはなんとなくそれが直美の香りのような気がして、思わずどきりとした。
「ありがとう。洗って返すよ」
 僕は、そんな思いを直美に悟られないよう、出来るだけそっけなくそう言った。だが、直美は僕の手から半ば強引にハンカチを奪い返すと、気にしないでと言った。
「それにしても楽しそうに踊るのね」
 ハンカチをカバンにしまった後に言った直美の言葉は、僕にとって意外なものだった。彼女の言葉にも表情にも、軽蔑した感じや、嘲笑しているような響きは無い。あくまで肯定的な意見として出ているものだった。
 僕はなんとなく、こういう場所で踊るという行為に対して、彼女は理解を示さないと思っていた。彼女であれば、恥ずかしくないのだとか、笑いながら茶化すか、とにかく否定的な憎まれ口をたたかれると覚悟していたのだ。昔の、彼女を好きだった頃のままの僕であれば、それを恐れて、踊りには行かなかっただろう。結果を出す前に、自分の中で否定的な結果を作り出し、それを恐れていたからだ。今もそれに関しては、大して変わりは無いと思うが、それでも踊ったのは、今の彼女に対する思いよりも、踊りたいと言う欲求のほうが大きかっただけなのかもしれない。いや、やはりそんな事を考えるより先に、体が動いてしまう程、のめりこんでいると言ったほうが正しい。
 
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