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  • 08/26/06:10

07.17.00:01

小説 ~Lover Shakers~その10

 自分達の席に戻った僕達は、晴れ晴れとした気分だった。二人の顔にも気負った様子は無い。自分達の本心を、素直に相手にぶつける事が出来た顔だった。彼らの僕達に対する今後の対応に、一抹の不安を感じないわけではなかったが、後悔などは無い。あるわけが無い。そういう顔だった。
 ハコフグ達は、さぞ驚いているだろう。自分達の誘いを一蹴する者が居たなんて、と。それほど彼らは驕りに満ちているのだ。一言も話さなかった今まででも、言葉を交わした今ならなおさら、彼らの傲慢さが手に取るように分かる。
 彼らもまた、踊るのがただ楽しくて、ここに通うようになったのだとは思う。だが、今はもう、その楽しさの本質が何処にあるのかを、見失ってしまっているのだ。ダンスが上手くなるにつれ、簡単なステップさえまともに踏めない人たちが、間抜けのように見えてしまったのかもしれない。
 確かに、何人かでステップを揃え、上手に踊ることは悪いことではないし、僕達もそういう、言わば『見せるダンス』を目指していることは確かだ。だが、それはダンスの一つの楽しみ方であって、全てではない。ただ単に、リズムに合わせて体を動かすことも、立派なダンスなのだ。特に、この店のような、ただ楽しむ為に来ている人たちにとっては、それで十分だと思う。それを馬鹿にしたり、見下したりする権利は、誰の手にも無いのだ。彼らはそれを忘れている。

「Jerryは少し後悔してるんじゃないのか」
 冷やかすように、Richardが言った。
 僕は、大きく手を振って見せた。
「冗談はやめてくれ。誰が好んで嫌われ者になるんだ」
「それもそうだな」
 Richardは笑って、そう答えた。
 そこで、僕は一つの提案をした。店のリクエストカードに、『Lover Shakers』名義で、リクエストを出すのである。リクエストした曲がかかれば、それが誰のリクエストであるのかを、MCで紹介されることになっている。個人名ではないリクエスト者を、バンドが話題として取り上げてくれれば、そのチームとは誰なのかがはっきりする。今まで自称でしかなかったチーム名を公表し、マジックトーンズの奴らに、僕達がチームであることを、知らしめ、ダメ押しを押してやるのだ。
 そう言う所はシャイなMickyは若干渋ったが、客数もずいぶん減っていることもあって、何とか納得した。恐らく、来た当初までとは言わなくても、程よく客が居る状態なら、絶対に反対したはずである。Richardは殆ど一も二も無く賛成というようりは、完全に乗り気だった。
 リクエスト曲は、今日一度もかかっていない、アレサ・フランクリンの「シンク~Think~」。映画ブルースブラザーズで、彼女自身が歌ったソウルナンバーだ。
 そして名前の欄に、まるでポスターのロゴを入れるように、丁寧に、
~LOVER SHAKERS~
と、記した。僕らは顔を見合わせにんまりと笑うと、そのリクエストカードを、ウェイターに手渡したのだった。

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*この小説はフィクションです。登場する人物・団体名は架空のものです。

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07.14.23:23

小説 ~Lover Shakers~その9

「女にもてるほどではないようだがな」
 ハコフグの言葉に、マジックトーンズのメンバー全員が、大声で笑った。Richardが、四人組に振られたことを言っているのは明白だった。
 僕ははっとなってRichardを見ると、Richardはすでに怒りをあらわに、既に一歩を踏み出そうかという状態である。僕は、慌てて彼のシャツの裾を引っ張った。ものすごい形相そのままに、Richardが僕を見る。
「出入り禁止になるぞ」
 僕は小声で、さらに制した。
 Richardは不承不承ながら、納得したようだった。
「僕達は面食いなんですよ」
 Mickyが何食わぬ顔で、そう返した。失礼ながら、確かに彼らの横にいる女性は、見せびらかして自慢するほど、顔やスタイルが良いとは、お世辞にもいえない。僕は思わず吹き出しそうになるのを、懸命にこらえた。Richardも、Mickyの言葉に、いくらか怒りを抑えたことだろう。
 逆に神経を逆なでされた、一番端に座っている痩せぎすのカマキリを想像させる男が、腰を浮かしかけたのを、ハコフグが制した。どうやら、ハコフグがこのチームのリーダー格らしい。
「なかなか肝が据わっているじゃないか。悪くないぜ」
「そんなに褒めてもらっても、何も奢りませんよ」
 ハコフグの言葉に、すかさずMickyが返す。ハコフグは呆れた様な笑みを口元に浮かべた。
「どうだ。俺達のチームに入らないか。踊りも教えてやるし、女にも不自由しないぜ」
 どうやら、彼らは僕らを懐柔し、自分たちの懐に納めるのが狙いらしい。考えても見なかった展開だ。だが、僕の答えは決まっている。こんないけ好かない連中とつるむ気も無ければ、傘下に納まる気も無い。Mickyも恐らく同じ気持ちだろう。Richardは馬鹿にされた分、なおさらだろう。
 僕らは、視線を合わせただけで、お互いの気持ちを認識しあった。
 Mickyが、向き直る。
「いえ。僕らは僕らだけでやっていきます。では」
 そういい終わった後には、もう身を翻している。これ以上話す事は何も無いと、態度で表しているのだ。Richardもそれに習って、すでに体を翻している。僕は軽く頭を下げて、立ち去ろうとしたその時、ハコフグの声が飛んできた。
「おい。お前だけでもどうだ。三人の中じゃ、一番センスあると思うぜ。下手糞と踊ってたって、上手くならないだろう」
 再び嘲笑が涌き上がる。
 僕は、仲間を馬鹿にされた怒りを抑えることに必死で、しばらく言葉が出なかった。深く息を吸い込むと、再びハコフグの目を見た。立ち去りかけた二人も、立ち止まって僕の後ろにいるのがわかる。
「楽しく踊れないと意味が無いんで。それに二人は下手じゃありませんよ」
 僕は、精一杯感情を抑えてそう言うと、彼らに背を向けた。

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*この小説はフィクションです。登場する人物・団体名は架空のものです。

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07.14.21:27

小説 ~Lover Shakers~その8

 日付が変わった。この頃には、店内もずいぶんと空いてきている。終電車の時間だから、当然と言えば当然である。残っている面々は、ほとんどが常連客で、Richardを振った四人組の姿も既に無い。
 今日のステージは残り二回。お気に入りの曲は殆ど演奏された。僕達のテーマソングとも言えるサム・クックの”ツイスト・イン・ザ・ナイト・アウェイ”も演奏され、僕達は、今日という夜に満足していた。Richardも、振られた悔しさなど微塵も見せずにいる。いつもすましているMickyも、その表情からは読み取りにくいが、存分に楽しんでいる。仕事終わりに感じた通りの、ご機嫌な夜となった。 
 タバコを吸いながら、何気なくぼんやりと周囲を見回すと、マジックトーンズのメンバーと目が合った。
 冒頭からの雰囲気で判るとおり、僕達は彼らとは、どこか相容れない雰囲気を感じている。踊りが上手いことを鼻に掛け、他の客を小馬鹿にしている様子が、なんとなく伝わってくるからだ。自分達が楽しければそれで良いと言う気持ちが、異臭となって体から染み出ているようで、とても馴れ合う気になれなかった。これまで何度も店で一緒になったことがあるが、一言半句たりとも口を利いたことは無い。
 そのマジックトーンズが、僕達に手招きをしている。自分達は席に深く腰掛けたまま、まるでウェイターを呼びつけるように手招きをしている。はじめは僕達と彼らの直線上にいる別の誰かに対して手招きをしているのかと思ったが、僕達の前にも後ろにも、人はいない。目は笑っているが、どう見てもその笑顔は、親愛の情から出ている笑みではない。どこか蔑みすら感じる笑顔だ。
 僕は視線をそらし、MickyとRichardと目をあわした。僕の視線の動きに気付いて、二人もどうやらこの事に気付いているようだった。Richardは、あからさまに不機嫌な顔をしている。Mickyは彼らの余りの横柄な態度に、少し呆れ顔だ。僕らも二人と同意見だった。
 僕らは、マジックトーンズの”呼び出し”に、応ずるかしばし迷った。応ずること事態が、癪に障ったのが原因なのは言うまでも無い。用件など大方読めている。今日のステージは全て、ど真ん中を僕達が独占していた。それを彼らが快く思っていない事はわかっている。それを生意気だとか何とか言って、出る杭である僕達を、早いとこへこましてやろうと言う気なのだろう。
 しばしの躊躇の後、僕達は揃って席を立ち、マジックトーンズの席へと向かった。彼らは僕たちの右手側、少し大きめのテーブルのソファーにふんぞり返っている。人数は八人。四人のメンバーそれぞれに、彼女と思しき女性がいる。
 Mickyは一番感情を表に出しているRichardを制するように一歩前に出ると、穏便な態度で用件を聞いた。
「お前らも、ずいぶん踊るのが上手くなったじゃないか」
 真ん中のハコフグがリーゼントの鬘をかぶったような男が、ひねくれた笑顔と共に、そんな言葉を吐き出した。明らかに上からものを言っている、余り感じが良いとは言えない口調だ。まるで自分達が、ダンスの手ほどきをしてやったとでも言うような口ぶりである。もちろん、僕らがダンスの教授を受けた事等は一度たりとも無い。会話さえ交わしてないのだから、当然である。
「それは、どうも」
 Mickyが、相変わらずの穏便な態度で受けた。

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07.12.23:33

小説 ~Lover Shakers~その7

 時刻は8時40分。次のステージが始まった。
 客が多いせいか、ハウスバンドものりのりで、最初からツイストナンバーのダニー&ジュニアーズ”アット・ザ・ホップ"や、リッチー・バレンスの”ラ・バンバ”、ジーン・ヴィンセントの”ビー・バップ・ア・ルーラ”と、ご機嫌なナンバーが続いた。どれも僕のお気に入りの曲ばかりで、ダンスにも気合が入る。とくに”ビーバップ・ア・ルーラ”はジーンヴィンセントをはじめ、様々なアーティストが、様々なアレンジで歌っている曲の一つだが、このバンドが演奏するこの曲は、バリ・バリのロックチューンに仕上げられており、モンキーダンスで、文字通り猿のように踊り狂うのだ。
 Richardに目をやると、目をつけた女の子の視線を気にしてか、いつもよりダンスに熱が入っているように感じる。4人組の女の子は、二人が見よう見真似で簡単なステップを踏みながら、残る二人に手招きをし、残る二人はテーブルに着いたままイヤイヤをしている。Richardのお待ちかねのスローナンバーは、もうすぐだ。
 かなりハードなナンバーを続けたせいか、4曲目にはもうスローナンバーがやってきた。曲はエルヴィス・プレスリーの”好きにならずにいられない”。原曲はピアノ伴奏で始まるが、ここではストリングスが奏でる、サビのメロディーから始まる。僕とMickyは、殆ど同時にRichardの背中を叩いてエールを送ると、席に戻った。
 渇いたのどを水割りで潤し、一息ついたところで余り音を立てないようにジッポーのふたを開いて、タバコに火をつけた。立ち上る煙が、ヴォーカルに向けられたピンスポットに照らされながら、ゆっくりと舞い上がってゆく。切なげな歌声を聴きながら、僕はぼんやりとそれを眺めていた。

 頭に浮かぶのは、最後の失恋の相手の事。当然ながら、振られて以来、全く連絡などとって居らず、また共通の友人がいるわけでも無いので、今どうしているのかさえわからない。思い浮かぶのは、まだ僕が告白する前の、楽しそうな彼女の笑顔。楽しかった思い出が、まるでスライドショウのように、脳裏に次々と映し出される。思い出すと、今でも胸の奥に、小さな針を突きたてられたような痛みが走る。
 こんな事を考える僕を、人は女々しいと言うかもしれない。いつまでも、過去を引きずっていないで、未来を見つめろと言うかもしれない。だが、破れた恋を、簡単に諦められるような恋ならば、それは僕にとっては恋ではない。喪失感に身を焼かれ、悲しみに心を引き裂かれるような思いを味会わないような恋なら、初めからするなと思う。

 肩を叩かれ、我に返ると、Mickyがくすくすと笑いながらこちらを見て、4人組の女の子がいる席のほうを、小さく指差している。
 ちらりと目をやると、4人全員が席についており、Richardの姿は何処にも無い。フロアにも目をやったが、熟年カップルが数組と、マジックトーンズのメンバー二人がそれぞれの相手とチークを踊っているのみで、やはりRichardの姿は見えない。席にも戻ってこないところを見ると、トイレにでも行っているのだろう。今日のRichardの恋は、早くも崩れ去ったことになる。

 
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07.11.23:38

小説 ~Lover Shakers~その6

 流れ落ちる汗を拭いながら、僕はステージが幕を閉じた後、トイレへと向かった。ツイストを2曲踊ると、信じられないくらい汗をかく。酒が入っているせいもあるだろうが、それにしてもすごい量だ。
 用を足した後、手洗いで顔まで洗い、ハンカチなんて洒落た物は持っていないので、トイレのペーパータオル手と顔を拭う。鏡を見ると、思ったとおり、リーゼントが少し崩れている。ジーンズのお尻のポケットから、鉄製のコームを取り出し、丹念に再セットをする。
 トイレのドアが開き、入ってきた40代の人が、上手ですねと声をかけてきた。僕は照れ臭ささもあって、笑顔で軽く会釈を返した。
 席に戻ると、早くも少し客が引いている。そんなに早く帰らなくてもと感じるが、少しぐらいなら減ったほうがありがたい。
 Richardは、どうやら若い女性客に目をつけたらしく、あの娘かわいいなと、鼻の下を伸ばしながら、Mickyにどの娘かを説明している。声をかけたいようだが、Mickyはあまり乗り気では無いらしく、行ってこいよと、促している。
 ところで、彼らの名前は外国人の名前のようだが、実は紛れも無い日本人である。言わば芸名のようなものだ。そんなものをつけようと言い出したのは、Richardだ。この3人の中で言いだしっぺは、たいていこの男である。ちなみに僕の名前はJerryということになっている。
 大してその名前で呼び合うことは無いのだが、彼が従姉妹から借りて読んだ、ロックンローラーとはこう言うものだという、言わばハウツー本の中にロックンローラーは本名ではなくそういった名前で呼び合うのだという項目を、実践したことになる。チーム名もその時出来上がり、”Lover Shakers”と命名した。もちろん誰も知らない。すべて自称の範囲を超えてはいないのである。
「Jerry。ちょっとあの子達に声をかけてこいよ」
Mickyに連れなくされたRichardは、席に着こうとしている僕に、やや照れ臭そうにそう言った。照れくさそうなのは、別に女の子に声をかけるのが照れくさいのではない。おそらく呼びなれない名前で呼び合うことに、言いだしっぺである本人が、照れているのである。
「俺がそういうの苦手なのは知ってるだろ」
かまわず席に座り、僕は水割りを勢いよく口に流した。テーブルには注文したパスタやピザ、フライドポテトなどが並んでいる。並んだ食べ物を見て、空腹を思い出した僕は、向かいで舌打ちをしているRichardを気にせず、ポテトを口に放り込んだ。ついでにRichardが声をかけようといった女の子がいるテーブルに目をやってみた。そこには派手目の遊びなれた感じの女の子が4人、談笑している。見た目で人を判断するのは、良くないことだが、もともと恋愛感情のスイッチが切れたままの僕は、あっさりと僕のタイプでは無いと判断を下した。
 Richardが僕とMickyに、根性なしだのなんだのと悪態をついている間に、例のメガネコンビが4人に近付いていった。馴れ馴れしく、さっき開いたばかりの隣の席について、なにやら話しかけている。
「ぐずぐずしてるから、先を越されたじゃないか」
Richardは、そう言って息巻いた。
 だが、メガネコンビはあっさりと振られたようで、しばらくするとすごすごと元の席に戻っていった。
「ざまあみろ」
小声でRichardが言い、ちいさくガッツポーズまで作っている。
「次のチークタイムで誘ってみる」
ようやく自分で声をかける気になったRichardは、意味不明な自信に溢れていた。こういう積極的な所は、すこし見習うべきなのかもしれない。

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