03.10.20:45
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07.14.21:27
小説 ~Lover Shakers~その8
日付が変わった。この頃には、店内もずいぶんと空いてきている。終電車の時間だから、当然と言えば当然である。残っている面々は、ほとんどが常連客で、Richardを振った四人組の姿も既に無い。
今日のステージは残り二回。お気に入りの曲は殆ど演奏された。僕達のテーマソングとも言えるサム・クックの”ツイスト・イン・ザ・ナイト・アウェイ”も演奏され、僕達は、今日という夜に満足していた。Richardも、振られた悔しさなど微塵も見せずにいる。いつもすましているMickyも、その表情からは読み取りにくいが、存分に楽しんでいる。仕事終わりに感じた通りの、ご機嫌な夜となった。
タバコを吸いながら、何気なくぼんやりと周囲を見回すと、マジックトーンズのメンバーと目が合った。
冒頭からの雰囲気で判るとおり、僕達は彼らとは、どこか相容れない雰囲気を感じている。踊りが上手いことを鼻に掛け、他の客を小馬鹿にしている様子が、なんとなく伝わってくるからだ。自分達が楽しければそれで良いと言う気持ちが、異臭となって体から染み出ているようで、とても馴れ合う気になれなかった。これまで何度も店で一緒になったことがあるが、一言半句たりとも口を利いたことは無い。
そのマジックトーンズが、僕達に手招きをしている。自分達は席に深く腰掛けたまま、まるでウェイターを呼びつけるように手招きをしている。はじめは僕達と彼らの直線上にいる別の誰かに対して手招きをしているのかと思ったが、僕達の前にも後ろにも、人はいない。目は笑っているが、どう見てもその笑顔は、親愛の情から出ている笑みではない。どこか蔑みすら感じる笑顔だ。
僕は視線をそらし、MickyとRichardと目をあわした。僕の視線の動きに気付いて、二人もどうやらこの事に気付いているようだった。Richardは、あからさまに不機嫌な顔をしている。Mickyは彼らの余りの横柄な態度に、少し呆れ顔だ。僕らも二人と同意見だった。
僕らは、マジックトーンズの”呼び出し”に、応ずるかしばし迷った。応ずること事態が、癪に障ったのが原因なのは言うまでも無い。用件など大方読めている。今日のステージは全て、ど真ん中を僕達が独占していた。それを彼らが快く思っていない事はわかっている。それを生意気だとか何とか言って、出る杭である僕達を、早いとこへこましてやろうと言う気なのだろう。
しばしの躊躇の後、僕達は揃って席を立ち、マジックトーンズの席へと向かった。彼らは僕たちの右手側、少し大きめのテーブルのソファーにふんぞり返っている。人数は八人。四人のメンバーそれぞれに、彼女と思しき女性がいる。
Mickyは一番感情を表に出しているRichardを制するように一歩前に出ると、穏便な態度で用件を聞いた。
「お前らも、ずいぶん踊るのが上手くなったじゃないか」
真ん中のハコフグがリーゼントの鬘をかぶったような男が、ひねくれた笑顔と共に、そんな言葉を吐き出した。明らかに上からものを言っている、余り感じが良いとは言えない口調だ。まるで自分達が、ダンスの手ほどきをしてやったとでも言うような口ぶりである。もちろん、僕らがダンスの教授を受けた事等は一度たりとも無い。会話さえ交わしてないのだから、当然である。
「それは、どうも」
Mickyが、相変わらずの穏便な態度で受けた。
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*この小説はフィクションです。登場する人物・団体名は架空のものです。
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今日のステージは残り二回。お気に入りの曲は殆ど演奏された。僕達のテーマソングとも言えるサム・クックの”ツイスト・イン・ザ・ナイト・アウェイ”も演奏され、僕達は、今日という夜に満足していた。Richardも、振られた悔しさなど微塵も見せずにいる。いつもすましているMickyも、その表情からは読み取りにくいが、存分に楽しんでいる。仕事終わりに感じた通りの、ご機嫌な夜となった。
タバコを吸いながら、何気なくぼんやりと周囲を見回すと、マジックトーンズのメンバーと目が合った。
冒頭からの雰囲気で判るとおり、僕達は彼らとは、どこか相容れない雰囲気を感じている。踊りが上手いことを鼻に掛け、他の客を小馬鹿にしている様子が、なんとなく伝わってくるからだ。自分達が楽しければそれで良いと言う気持ちが、異臭となって体から染み出ているようで、とても馴れ合う気になれなかった。これまで何度も店で一緒になったことがあるが、一言半句たりとも口を利いたことは無い。
そのマジックトーンズが、僕達に手招きをしている。自分達は席に深く腰掛けたまま、まるでウェイターを呼びつけるように手招きをしている。はじめは僕達と彼らの直線上にいる別の誰かに対して手招きをしているのかと思ったが、僕達の前にも後ろにも、人はいない。目は笑っているが、どう見てもその笑顔は、親愛の情から出ている笑みではない。どこか蔑みすら感じる笑顔だ。
僕は視線をそらし、MickyとRichardと目をあわした。僕の視線の動きに気付いて、二人もどうやらこの事に気付いているようだった。Richardは、あからさまに不機嫌な顔をしている。Mickyは彼らの余りの横柄な態度に、少し呆れ顔だ。僕らも二人と同意見だった。
僕らは、マジックトーンズの”呼び出し”に、応ずるかしばし迷った。応ずること事態が、癪に障ったのが原因なのは言うまでも無い。用件など大方読めている。今日のステージは全て、ど真ん中を僕達が独占していた。それを彼らが快く思っていない事はわかっている。それを生意気だとか何とか言って、出る杭である僕達を、早いとこへこましてやろうと言う気なのだろう。
しばしの躊躇の後、僕達は揃って席を立ち、マジックトーンズの席へと向かった。彼らは僕たちの右手側、少し大きめのテーブルのソファーにふんぞり返っている。人数は八人。四人のメンバーそれぞれに、彼女と思しき女性がいる。
Mickyは一番感情を表に出しているRichardを制するように一歩前に出ると、穏便な態度で用件を聞いた。
「お前らも、ずいぶん踊るのが上手くなったじゃないか」
真ん中のハコフグがリーゼントの鬘をかぶったような男が、ひねくれた笑顔と共に、そんな言葉を吐き出した。明らかに上からものを言っている、余り感じが良いとは言えない口調だ。まるで自分達が、ダンスの手ほどきをしてやったとでも言うような口ぶりである。もちろん、僕らがダンスの教授を受けた事等は一度たりとも無い。会話さえ交わしてないのだから、当然である。
「それは、どうも」
Mickyが、相変わらずの穏便な態度で受けた。
*この小説はフィクションです。登場する人物・団体名は架空のものです。
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