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  • 03/10/20:43

07.12.23:33

小説 ~Lover Shakers~その7

 時刻は8時40分。次のステージが始まった。
 客が多いせいか、ハウスバンドものりのりで、最初からツイストナンバーのダニー&ジュニアーズ”アット・ザ・ホップ"や、リッチー・バレンスの”ラ・バンバ”、ジーン・ヴィンセントの”ビー・バップ・ア・ルーラ”と、ご機嫌なナンバーが続いた。どれも僕のお気に入りの曲ばかりで、ダンスにも気合が入る。とくに”ビーバップ・ア・ルーラ”はジーンヴィンセントをはじめ、様々なアーティストが、様々なアレンジで歌っている曲の一つだが、このバンドが演奏するこの曲は、バリ・バリのロックチューンに仕上げられており、モンキーダンスで、文字通り猿のように踊り狂うのだ。
 Richardに目をやると、目をつけた女の子の視線を気にしてか、いつもよりダンスに熱が入っているように感じる。4人組の女の子は、二人が見よう見真似で簡単なステップを踏みながら、残る二人に手招きをし、残る二人はテーブルに着いたままイヤイヤをしている。Richardのお待ちかねのスローナンバーは、もうすぐだ。
 かなりハードなナンバーを続けたせいか、4曲目にはもうスローナンバーがやってきた。曲はエルヴィス・プレスリーの”好きにならずにいられない”。原曲はピアノ伴奏で始まるが、ここではストリングスが奏でる、サビのメロディーから始まる。僕とMickyは、殆ど同時にRichardの背中を叩いてエールを送ると、席に戻った。
 渇いたのどを水割りで潤し、一息ついたところで余り音を立てないようにジッポーのふたを開いて、タバコに火をつけた。立ち上る煙が、ヴォーカルに向けられたピンスポットに照らされながら、ゆっくりと舞い上がってゆく。切なげな歌声を聴きながら、僕はぼんやりとそれを眺めていた。

 頭に浮かぶのは、最後の失恋の相手の事。当然ながら、振られて以来、全く連絡などとって居らず、また共通の友人がいるわけでも無いので、今どうしているのかさえわからない。思い浮かぶのは、まだ僕が告白する前の、楽しそうな彼女の笑顔。楽しかった思い出が、まるでスライドショウのように、脳裏に次々と映し出される。思い出すと、今でも胸の奥に、小さな針を突きたてられたような痛みが走る。
 こんな事を考える僕を、人は女々しいと言うかもしれない。いつまでも、過去を引きずっていないで、未来を見つめろと言うかもしれない。だが、破れた恋を、簡単に諦められるような恋ならば、それは僕にとっては恋ではない。喪失感に身を焼かれ、悲しみに心を引き裂かれるような思いを味会わないような恋なら、初めからするなと思う。

 肩を叩かれ、我に返ると、Mickyがくすくすと笑いながらこちらを見て、4人組の女の子がいる席のほうを、小さく指差している。
 ちらりと目をやると、4人全員が席についており、Richardの姿は何処にも無い。フロアにも目をやったが、熟年カップルが数組と、マジックトーンズのメンバー二人がそれぞれの相手とチークを踊っているのみで、やはりRichardの姿は見えない。席にも戻ってこないところを見ると、トイレにでも行っているのだろう。今日のRichardの恋は、早くも崩れ去ったことになる。

 
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*この小説はフィクションです。登場する人物・団体名は架空のものです。

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