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  • 05/15/17:14

09.29.23:41

小説 ~Lover Shakers~ autumn season Vol.1 その13

 Richardは僕の予想に反して、あっけないほどすんなりと由美子の隣に腰を下ろした。その顔には微塵の迷いも無い。まだ、誘って踊ってくれるほどの手応えを、感じなかったのだろうか。Richardにしては慎重な気がする。普通なら、冗談交じりにでも、一度誘ってみるだろうからだ。
 僕も直美の隣に腰を下ろすと、グラスに半分ほど入っていた水割りを一気に飲み干し、ポールモールに火をつけた。
  荘厳とも言えるオルガンの響きが、聴く者の奥底にしまってある哀愁という感情を、否応無く引き出してくる。僕にしても、その例外ではない。直美が隣に居る事もあって、思い出すのは、あの告白の事だ。何か見えない力で心の核になる部分を締め付けられ、僕は為す術も無く大きく煙を吐き出すと、その紫煙の行方を力ない目で追っていた。
「汗ぐらい拭きなさいよ」
 モノトーンな、暗い過去の世界に引きずり込まれそうになった僕を、鮮やかな現実に引き戻してくれたのは、他ならぬ直美だった。その口調とは裏腹に、どこかやさしさを感じるその声。 まだ力の入らない眼差しを直美に向けると、その手にはハンカチが握られていた。
 僕は直美に礼を言いつつ、ハンカチを受け取り、汗を拭う。ハンカチからほのかに香るのは、間違いなく洗剤に入っている香料が発するものなのだろうが、僕にはなんとなくそれが直美の香りのような気がして、思わずどきりとした。
「ありがとう。洗って返すよ」
 僕は、そんな思いを直美に悟られないよう、出来るだけそっけなくそう言った。だが、直美は僕の手から半ば強引にハンカチを奪い返すと、気にしないでと言った。
「それにしても楽しそうに踊るのね」
 ハンカチをカバンにしまった後に言った直美の言葉は、僕にとって意外なものだった。彼女の言葉にも表情にも、軽蔑した感じや、嘲笑しているような響きは無い。あくまで肯定的な意見として出ているものだった。
 僕はなんとなく、こういう場所で踊るという行為に対して、彼女は理解を示さないと思っていた。彼女であれば、恥ずかしくないのだとか、笑いながら茶化すか、とにかく否定的な憎まれ口をたたかれると覚悟していたのだ。昔の、彼女を好きだった頃のままの僕であれば、それを恐れて、踊りには行かなかっただろう。結果を出す前に、自分の中で否定的な結果を作り出し、それを恐れていたからだ。今もそれに関しては、大して変わりは無いと思うが、それでも踊ったのは、今の彼女に対する思いよりも、踊りたいと言う欲求のほうが大きかっただけなのかもしれない。いや、やはりそんな事を考えるより先に、体が動いてしまう程、のめりこんでいると言ったほうが正しい。
 
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*この小説はフィクションです。登場する人物・団体名は架空のものです。
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