08.21.07:08
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04.30.21:53
小説~Lover Shakers~Outside Storys Vol.1その4
約1時間に及ぶ、大人になるための試練とも言うべき『成人式』が終わりを告げた。
僕達三人は、檻から解き放たれた囚人のように、先を競って出口を求め、外に出てからは、何人か出くわした中学以来の顔見知りと、当たり障りの無い会話をし、彼らが発した「懐かしいな」と言う言葉に、顔見知りが年を取ったことを知る。
たった数年前の事を振り返って、懐かしむなんて、年寄りのすることだと、僕は頑なに信じている。
だから、僕は過ぎ行く顔見知りの背中に、こう呟く。
サヨナラ、オジサン。
時計の針は、まだ2時を少し回ったところで立ち往生している。
ひさ兄との待ち合わせ時間は、午後6時。実のところ三人そろって、会場に到着するまで、終了の時間など知らなかったのだ。いい加減な三人。
4時間と言う時間は、暇を潰すには長すぎるし、一度帰って出直すには短すぎる。
僕達は協議の末、前者を選んだ。電車で三宮まで出て、目に留まった店でも覗きながら、と言う計画だ。
しかし、そんないい加減な計画で、長い時間が潰しきれるわけがない。自分の脂肪に押し潰されそうなヒロなど、真夏に路上に落としたソフトクリームみたいに、今にも溶けて崩れてしまいそうだ。
僕らは視線の中に入った喫茶店めがけて人を掻き分け、飛び込む。ヒロは、砂漠で見つけたオアシスでも見るような目をしている。
飛び込んでは見たものの、軽やかなドアベルの音と共に閉まるドアの前で、僕達三人は思わず立ちすくんでしまった。
古びれた店内は、外の雑踏が嘘のように静まり返っている。正確には、恐らくジャズと思われるピアノの軽やかなメロディが、控えめに流れている。客はカウンター席に一人。あとは『Reserved』という札が置いてあるかのように、人っ子一人居ない。
一瞬引き返そうかとも思ったが、老女にしては背丈があり恰幅もいい、KONISHIKIを連想させるバアサン店員の、「さっさと座りな」とでも言いたげな目線に気圧されて、僕達はいそいそと窓際の席に追いやられた。
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04.27.22:14
小説~Lover Shakers~Outside Storys Vol.1その3
会社の上司も、うちの親も、『一生に一度きりだから、きっと記念になる』という決まり文句で僕に勧めてくれたが、どうしようもなく退屈だった。
市長だか社長だか知らないが、偉い人が前に立って、もっともらしい事を綺麗事でデコレーションして、自分を良く見せる為にトッピングした言葉を織り交ぜながら、スピーカーを通して、有害物質のように撒き散らしている。
これはある意味公害だ。
マスコミを喜ばせるだけの効果しかないのに、野次を飛ばしたり、行き過ぎた悪ふざけをする、イカれた新成人のように振舞う気は無いが、この場に来て初めて、ほんの少しだけその気持ちが分かったような気がした。この『成人式』が、もし半日に及ぶような式典なら、僕は間違いなく抜け出していただろう。
僕の右隣のべーやんは始まった瞬間から、首の骨が折れそうなほど頭を振って寝ているし、左隣のヒロは、高校を出た途端にメタボリック目指してまっしぐらの小太りのボディが椅子に合わないのか、ひっきりなしにもぞもぞしている。
僕はと言えば、今晩向かう店の事を考えていたのだが、僕の貧弱なイメージでは、あまり良いイメージは描けないようだ。
一つは、体育館で行われた音楽会のように、ステージの上でオデコの面積の広いリーゼントをしたオジサン達が演奏しているのを、いくつかのテーブルに腰掛けたオジサン、オバサンが、昔を懐かしむような眼差しで見ているような店。
もしくは、マンガの世界でしか知らない、ヤンキー(?)のようなバンドが演奏していて、同じように目つきが悪く、あまり健康的とは言えない、頭のネジが23本取れてしまったような若者が、タバコをふかし、貞操と言う文字とはかけ離れた女をはべらせているような店。
でも、そのどちらもひさ兄とは結びつかないし、僕が気に入るわけも無かった。つまりは、どちらも本当の店とはかけ離れたイメージだと言う事だが、それ以上は、どう頭をひねってみても、思いつきそうに無かった。
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04.24.10:09
小説~Lover Shakers~Outside Storys Vol.1 その2
受話器の向こうのべーやんは、少し上気しているようだった。いつもより早口で、まるで1.5倍速で再生したDVDみたいだ。
一通りのありきたりな会話の後、べーやんはようやく本題に入った。
「なあ、成人式の後なんだけど、ひさ兄が飲みに連れてってやるって言ってるんだけど。それが、飲みに行くんだけどライブハウスなんだって。変だろ。ヒロはもうOK貰ったんだけど、お前も行く?」
なんだか分からない。お酒を飲むライブハウス?僕には全く想像もつかない店だった。ちなみにひさ兄とは、べーやんの3つ上の兄貴だ。僕とべーやんに、エロビデオなどを提供してくれるなど、中学の頃から何かと世話になっている。ヒロは高校からの親友。
「ライブハウスって、チキンジョージとかそう言う所?」
「いや、確かダイアナって言ってたかな。50年代のアメリカの音楽を演奏してて…。ひさ兄が言うには、レージなら、きっと気に入るって」
50年代のアメリカの音楽と言えば、エルヴィスとバディーホリー位しか知らない。どちらも元春から教えてもらった名前だ。とは言え、どちらもちゃんと聞いたことは無い。だから別に興味が湧いた訳ではなかったけれど、世話になってるひさ兄の誘いとあっては断るわけにはいかない。
「まあ、いいよ」
軽い気持ちで返事をして電話を切った。
再びコンポのヴォリュームを上げる。
―あてのない旅をして
どこにたどり着いたんだ
さまよう君の魂 今日も―
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04.21.22:53
小説~Lover Shakers~Outside Storys Vol.1
とはいえ、この世に生を受けて、おおかた20年。今のところ、それほどの出会いに、お目にかかったことは無い。良くも悪くも無い平凡な高校を卒業した後、仕事への情熱も、これと言ってのめり込む様な趣味も、見つけられない始末だ。
僕の大好きな佐野元春は、『つまらない大人にはなりたくない』と叫んでいる。僕はそうなりたくないとは思いつつも、着実に”つまらない大人”になりつつある自分を、諦めにも似た境地でぼんやりと眺めていた。
モノトーンがお似合いの冬枯れの午後。成人式を1週間後に控えた僕は、これと言ってやる事も無く、3年前に発売された元春のアルバム『The SUN』を聞きながら、毛布に包まっていた。
―我が道を行け
我が道を行け
やるせない 日々の孤独に
優しい雨が降りそそいでいるよ―
元春はそう言うけれど、僕の『我が道』は、いったい何処にあるのだろう。抜け出せない迷路。学生時分から変わらない友人との馬鹿騒ぎを繋ぎ合わせるだけの日々。
新しいメッセージが欲しい。
僕の先生とも言うべき元春からのメッセージは、'04年を最後に途絶えたままだ。今はこうして、過去の授業を反復するしか術が無い。
―Someday この胸に…―
携帯の着歌が、コンポから流れる音楽とごちゃ混ぜになる。
僕は苛立たしげにコンポのヴォリュームを下げ、次に携帯の画面に目をやる。
電話の主は通称”べーやん”こと、渡辺 秀。中学からの親友で、成人式に一緒に行こうという約束をしている。普通はあだ名が『シュウ』になっても良さそうなものだが、べーやんはその容姿からして『シュウ』では無い。あくまで『べーやん』なのだ。
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*この小説はフィクションです。登場する人物・団体名は架空のものです。
12.13.22:55
小説 ~Lover Shakers~ autumn season Vol.1 その28
「結婚、結婚って、そんな絶対的なものなのかよ。言っちゃなんだが、結婚てのは、ゴールじゃないんだぜ。まあ、希望は限りなくゼロに近いかもしれないけど、離婚する可能性だって無いわけじゃない。諦められないんだったら、無理に諦める必要なんて、無いと思うぜ」
Mickyの長饒舌の間に、Richardの顔からは見る見る怒気が消え、唖然とした表情になったかと思うと、瞬く間に、目に生気が蘇って来るのが、面白いほどよく分かった。そして、「そうか。そうなのか」を、何度も繰り返した後には、すっかりいつものRichardにもどっていた。とてもつい数時間前に振られた男には見えない。いつもながら、この立ち直りの早さは、脱帽ものである。
「そうか。離婚か」
Richardは、そう呟いた後、突然「り・こ・ん!り・こ・ん!」と、叫び始めた。僕と、Mickyもそれに続き、真夜中の大合唱となった。
「待てるなら、待ってみるのもいいんじゃないか。その間に、また別の出会いがあるかもしれないし。もっと、いい子と出会えば、その時に、由美子の事を忘れればいい」
馬鹿騒ぎが一段落した後、またもやMickyが良い事を言った。Mickyが離婚の可能性を言ったのは、ある意味気休めかもしれない。だけど、絶対に無いとは言い切れないし、振られて僕の様に恋愛のスイッチが切れてしまうよりは、よほどポジティブな発想だと思う。これから幸せになろうとしている由美子には、迷惑極まりない話かもしれないが……。
「遠征しないか?」
いつもより少し早い眠りにつこうと、寝転がってしばらくした頃、Richardが呟くような声で言った。遠征とは、全国チェーン店であるダイアナの、他の地域の店舗に行こうと言う話である。以前から、僕達の間で、度々話題に上ってはいたが、いまだに実行に移した事はなかった。
「失恋旅行って訳か」
Mickyが、からかう様にそう言い、乗り気な僕は、「いいな。何処にする」と、 Richardが反論する前に、そう聞いた。
「何処でも良いや。詳しい事は任せる」
これもRichardの十八番だ。言うだけ言って、面倒くさい事は、僕とMickyに丸投げなのだ。
「札幌でも、那覇でもいいんだな」
Mickyが意地悪く笑った。
「いや。程々の距離でお願いします」
この答えからして、それでも矢張り、自分で決める気は無いらしい。
。
(了)
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*この小説はフィクションです。登場する人物・団体名は架空のものです。
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