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  • 05/15/21:32

11.12.23:18

小説 ~Lover Shakers~ autumn season Vol.1 その24

 失恋女性の哀切極まりない感情を吐露する歌詞の中、それでもRichardは満足げに、そしてやや控えめに、愛する由美子をその腕の中に抱いている。
 僕は当初、Richardにあやかって、もう一度直美とチークを踊ろうなどと、野暮な考えを抱いていたが、今はもうそんな思いは消滅していた。Richardの心底幸せそうな顔を見ただけで、何か満たされたような気分になったからだ。
 僕はRichardの様子を伺いつつ、グラスを傾け、ポールモールを吸いつづけた。
 Richardと由美子の視線が絡み合い、Richardの口元が動く。いよいよ、Richardの告白が始まったのかもしれない。
 その直後、離れている僕にもはっきりと分かる異変が、由美子に現れていた。視線を足元に落とし、小さく肩を震わせながら、Richardの肩に触れていた手を、自分の目元へと移した。泣いているのは、一目瞭然だった。
 Richardに良くない事が起ころうとしている。”砂に消えた涙”の歌詞になぞらえた様な不幸が、Richardに降りかかろうとしている。由美子の流している涙は、断じてRichardが変わらずに自分を愛してくれている事に対する、感動の涙では無い。それどころか、その想いに対する申し訳なさの表れとしか思えない。
 Richardの表情は、困惑に溢れ、それはやがて悲嘆へと変わってゆく。
 Richardのそんな姿を見ているうちに、僕は、由美子に対する怒りが沸々と湧いてくるのを感じていた。
 想いに応える気が無いのなら、何故由美子は誘いに乗って、此処へ来たのか。
 彼の愛情の深さを知りながら、彼に愛情を感じる事ができないのなら、なぜ笑顔で接し続けるのか。
 どこまで純真な心を、弄べば気が済むのか。

 二人はすでにステップを踏む事さえ忘れて、ただただダンスフロアの端に立ち尽くしていた。それでもRichardは、泣き続ける由美子の背中を優しく摩りながら、顔だけはやや上に向けて、虚空を眺めている。由美子はずっと肩を震わせながら、何事か呟き続けていた。


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*この小説はフィクションです。登場する人物・団体名は架空のものです。
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