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  • 01/27/21:51

09.29.23:41

小説 ~Lover Shakers~ autumn season Vol.1 その13

 Richardは僕の予想に反して、あっけないほどすんなりと由美子の隣に腰を下ろした。その顔には微塵の迷いも無い。まだ、誘って踊ってくれるほどの手応えを、感じなかったのだろうか。Richardにしては慎重な気がする。普通なら、冗談交じりにでも、一度誘ってみるだろうからだ。
 僕も直美の隣に腰を下ろすと、グラスに半分ほど入っていた水割りを一気に飲み干し、ポールモールに火をつけた。
  荘厳とも言えるオルガンの響きが、聴く者の奥底にしまってある哀愁という感情を、否応無く引き出してくる。僕にしても、その例外ではない。直美が隣に居る事もあって、思い出すのは、あの告白の事だ。何か見えない力で心の核になる部分を締め付けられ、僕は為す術も無く大きく煙を吐き出すと、その紫煙の行方を力ない目で追っていた。
「汗ぐらい拭きなさいよ」
 モノトーンな、暗い過去の世界に引きずり込まれそうになった僕を、鮮やかな現実に引き戻してくれたのは、他ならぬ直美だった。その口調とは裏腹に、どこかやさしさを感じるその声。 まだ力の入らない眼差しを直美に向けると、その手にはハンカチが握られていた。
 僕は直美に礼を言いつつ、ハンカチを受け取り、汗を拭う。ハンカチからほのかに香るのは、間違いなく洗剤に入っている香料が発するものなのだろうが、僕にはなんとなくそれが直美の香りのような気がして、思わずどきりとした。
「ありがとう。洗って返すよ」
 僕は、そんな思いを直美に悟られないよう、出来るだけそっけなくそう言った。だが、直美は僕の手から半ば強引にハンカチを奪い返すと、気にしないでと言った。
「それにしても楽しそうに踊るのね」
 ハンカチをカバンにしまった後に言った直美の言葉は、僕にとって意外なものだった。彼女の言葉にも表情にも、軽蔑した感じや、嘲笑しているような響きは無い。あくまで肯定的な意見として出ているものだった。
 僕はなんとなく、こういう場所で踊るという行為に対して、彼女は理解を示さないと思っていた。彼女であれば、恥ずかしくないのだとか、笑いながら茶化すか、とにかく否定的な憎まれ口をたたかれると覚悟していたのだ。昔の、彼女を好きだった頃のままの僕であれば、それを恐れて、踊りには行かなかっただろう。結果を出す前に、自分の中で否定的な結果を作り出し、それを恐れていたからだ。今もそれに関しては、大して変わりは無いと思うが、それでも踊ったのは、今の彼女に対する思いよりも、踊りたいと言う欲求のほうが大きかっただけなのかもしれない。いや、やはりそんな事を考えるより先に、体が動いてしまう程、のめりこんでいると言ったほうが正しい。
 
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*この小説はフィクションです。登場する人物・団体名は架空のものです。
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09.26.23:53

小説 ~Lover Shakers~ autumn season Vol.1 その12

 この曲では間奏の間、ツイストになる。ツイストを踊り、通常のステップへと移ったときに、ふと視線をめぐらせると、両隣にはいつの間にかMickyとRichardの姿があった。Mickyはやはり少し照れ臭そうに、Richardは由美子の視線を意識してか、いつもより熱をこめて踊っている。真意は分からないが、結局二人も踊らずには居られなかったのだと、勝手に解釈した。そして、やはりと言うべきか、その周辺に直美たち三人の姿は無かった。
 僕はダイアナに来て踊らない人たちを、馬鹿にしたり、軽蔑する気は無いが、ただ音楽に耳を傾けるだけの人たちは、人生において一つの楽しみを放棄しているように思えてならない。それは釣りに来ているのに、竿を出さないようなものだ。踊りは何処の世界にも存在する。それは踊ると言う行為が、人間にとって必要不可欠なものだからだと思う。ストレスの発散、自分という存在の一つの表現方法、感情の発露。いろいろ踊る理由はあると思う。だが、それが楽しいと言う事に変わりは無い。羞恥心という枷を脱ぎ捨て、踊りだした者だけが、その素晴らしさを知るのだ。

 二曲目は、”ダイナマイト”。ブレンダ・リーのどすの利いた歌声が印象的なナンバーで、特に間奏で踊る、単体のステップでは恐らくダイアナ一の難易度を誇るステップを踏む時の、何とも言えない優越感が好きなナンバーだ。続いてはスインギング・ブルージーンズの”ヒッピー・ヒッピー・シェイク”、そしてやや季節はずれな気もするが、南国ムード満点なアネットの”パイナップル・プリンセス”と続き、僕達は満足しながら、そして例外にもれず顔中に汗を光らせながら、席へと戻った。
 その背後では、すでにスローナンバーが流れ始めている。曲はプロコル・ハルムの”青い影”。オルガン奏でる、胸の深いところに響くメロディが哀愁を誘う。 
 Richardは由美子を誘うのだろうか。僕はそんな事を考えながら、前を行くRichardの背中を見つめていた。誘うのであれば、どうか上手く行きますように。そう願いながら。

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09.24.23:05

小説 ~Lover Shakers~ autumn season Vol.1 その11

 それにしても、直美はよく僕に話しかけてくる。高校時代はそうでもなかったのだ。二人だけの時は、僕が無言であれば、彼女もまた無言であるのが常だったし、何人かで居るときも、僕に話し掛けてくる方が稀だった。だからこそあの時、僕は彼女に嫌われているのではないかと言う、悪しき推測に駆られ、追い詰められていったのだ。この変化は何なのだろう。楽天的に考えれば、少し変わった僕に、彼女が興味を持ち始めたとも考えられるし、ただ単に、隣に座っているからだけなのかもしれない。
 どの道答えの出ることの無いこの疑問に、僕は終止符を打つことに決めた。今日は、Richardの事が最優先である。僕の始まるか始まらないかも分からない恋など二の次だ。
「そうかな」
 ぼくは、あえて惚けた振りで、そう答えると、タバコをふかした。視線の先にはRichardの楽しげな笑顔と、由美子の相変わらずの上品な笑顔が目に入る。何度振られてもめげない、自分の心に素直なRichardを、この時ほど、心の底から羨ましく思った事は無かった。
 
 そうこうしている内に、ステージが始まった。今日最初の曲は、コニー・フランシスの”カラーに口紅”。♪Yayayayayah~♪という独特なコーラスの声と、楽しげなギターサウンドで始まるイントロを耳にすると、僕はもう立ち上がっていた。見えもしない直美の心に振り回されかけていた僕や、Richardの為に何か力になろうと言う僕は、綺麗さっぱり居なくなっていた。Richardには申し訳ないが、こればかりはどうしようもない。
 何気なくRichardとMickyに視線を投げかけると、Mickyは照れくさそうな笑みを浮かべ、Richardは「行くのか?」と問いたげな表情を浮かべている。
 僕はそんな二人の表情に、何故か頑なに「一人でも踊ってやる」という、強い決意を胸に秘めつつ、そのまま一歩を踏み出していた。
「みんなも踊ってみる?」
 そんなRichardの問いかけが耳に入ったが、気にせず歩みを進め、フロアに入ると、直美たちの視線も気にせず踊り始めた。正確に言えば、この時すでに、オールディーズにもダンスにも特に興味の無い知り合い三人の事は、脳裏に無かったと言ったほうが正しいかもしれない。ここに通いだしてから、赤の他人であれ、この”踊る”と言う行為に、羞恥心を覚えた事は一度たりとも無い。もちろんここに誘ってくれたRichardやMickyの二人がともに踊ってくれた事も、当初は羞恥心を抑える一因になっていたのかもしれない。だが、一つステップを覚えるたびに、僕の踊りに対する喜びと言うか、楽しみは、それが本来の姿であるかのように板についていった。前世は踊りを生業とした、いわゆる一所不在の”芸能の民”であったのではないかと思えるほどだ。今の僕なら、恐らくダンスフロアに僕しか居ないとしても踊れるだろう。
 この曲のダンスの、正確な名前は知らない。もしかすると、名前さえないのかもしれない。ただ前に四歩進み、すぐに後ろ向きのまま四歩下がり、続いて一歩踏み出した右足に左足を添えるという、実に単純なものだ。それだけに、動き一つでダンスに見えなくなってしまう。
 昔顔見知りの人間に、「ダイアナのダンスは簡単で覚えやすい」と、すこし蔑みのこもった口調で言われたことがある。もちろん僕はダンスを本格的にやっている人間ではないから、ほかのダンスのステップが如何に難しいだとか、ここのステップが如何に単純で短調なものなのかなど、知る由も無い。だが、簡単なステップほど、格好良く見せるのは難しいというのが、僕の持論だ。ここに来ている客の中でも、格好良く踊れるのは、ほんの一握りでしかない。僕がその一握りに入っているなどという傲慢な考えは持っていないがと前置きした上で、覚えるのと格好良く踊るのは違うと、言ってやると、そいつはそれ以上何も言おうとはしなかった。

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09.21.00:16

小説 ~Lover Shakers~ autumn season Vol.1 その10

 席は歩いていた時と同じく、Richardの隣には由美子、Mickyの隣には千恵、そして僕の隣には直美が座っている。僕達はそろってタバコに火をつけ、紫煙をくゆらせ、直美達はメニューを囲んでどれを注文するかを、楽しげに相談しあっている。そのうちに先に注文済みの奮発したブランデーのボトルが運ばれ、ウェイターが六つの水割りをつくってゆく。
 ウェイターがグラスを並べると、いつもの僕達には想像つかない程、様々なフードを注文し終えると、僕達はグラスを合わせた。
「こういう店が好きなんだ。意外ね」
 直美が、店内を見回しながらそう言った。彼女の感想はもっともだった。高校時代の僕は、いい意味でも悪い意味でも、普通の何処にでもいるそれほど目立つほうではない学生だった。とてもこんなある意味目立つ格好をして、あまり一般的とは言いがたい店に出入りしているなど、誰が想像出来るだろう。
 

 

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09.14.23:09

小説 ~Lover Shakers~ autumn season Vol.1 その9

 僕達六人は、雑踏の中を笑顔を絶やすことなくダイアナへと向かった。中でも今日一番の笑顔は、やはりRichardだ。いつも僕達と居るときに見せる笑顔とは、どこか質が違う。どこがどう違うかを、具体的に説明することは出来ないが、明らかに異なる。それだけは確かだ。彼はそのRichardの名前の由来である、リトル・リチャードの畳み掛けるような曲さながらに、絶えず由美子に話しかけている。まるで他の四人など、この場に居ないかのような感じだ。由美子は、Richardの冗談に、昔どおりのクスクスと上品に抑えた笑みを浮かべている。その笑顔には、どこか翳りがあるようにも見えたが、控えめな笑顔がそう見えるだけのようにも感じた。
 ひんやりとした秋風が、やや火照り気味の僕の頬を冷やかすようになでてゆく。 僕を上気させているのは、隣に居る直美のせいなのは、もはやまぎれも無い事実だ。Mickyもどうやら気を使って、僕と直美が並んで歩けるように、千恵の隣を歩いている。
 こんな感情を抱くのは、ずいぶんと久しぶりな気がする。もう一度直美を好きになったところで、僕に勝算があるわけではない。そういう意味では、好きになってはいけないのかもしれない。だが、今はそんな事はどうでもよかった。今はただ、久しぶりに味わう、このふわふわとした浮遊感にも似た気分に浸って居たいのだ。
 
 ダイアナの扉を開けると、僕達の耳に最初に飛び込んできたのは、プラターズの”君こそわが運命”。切なく胸に響く歌声に、僕は何か運命的なものを感じていた。恐らくRichardもそうだろう。プラターズに出迎えられながら、僕達はウェイターに導かれるまま、席へと向かった。店内は週末らしく、ほとんどの席が埋まっている。今日案内された席は、店の一番奥、トイレへと続く通路の横のボックス席だった。隣には夫婦だろうか、熟年のカップルが落ち着いた感じで座っている。僕はその二人に軽く会釈しながら、席についた。

 

 

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