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  • 05/16/11:31

09.24.23:05

小説 ~Lover Shakers~ autumn season Vol.1 その11

 それにしても、直美はよく僕に話しかけてくる。高校時代はそうでもなかったのだ。二人だけの時は、僕が無言であれば、彼女もまた無言であるのが常だったし、何人かで居るときも、僕に話し掛けてくる方が稀だった。だからこそあの時、僕は彼女に嫌われているのではないかと言う、悪しき推測に駆られ、追い詰められていったのだ。この変化は何なのだろう。楽天的に考えれば、少し変わった僕に、彼女が興味を持ち始めたとも考えられるし、ただ単に、隣に座っているからだけなのかもしれない。
 どの道答えの出ることの無いこの疑問に、僕は終止符を打つことに決めた。今日は、Richardの事が最優先である。僕の始まるか始まらないかも分からない恋など二の次だ。
「そうかな」
 ぼくは、あえて惚けた振りで、そう答えると、タバコをふかした。視線の先にはRichardの楽しげな笑顔と、由美子の相変わらずの上品な笑顔が目に入る。何度振られてもめげない、自分の心に素直なRichardを、この時ほど、心の底から羨ましく思った事は無かった。
 
 そうこうしている内に、ステージが始まった。今日最初の曲は、コニー・フランシスの”カラーに口紅”。♪Yayayayayah~♪という独特なコーラスの声と、楽しげなギターサウンドで始まるイントロを耳にすると、僕はもう立ち上がっていた。見えもしない直美の心に振り回されかけていた僕や、Richardの為に何か力になろうと言う僕は、綺麗さっぱり居なくなっていた。Richardには申し訳ないが、こればかりはどうしようもない。
 何気なくRichardとMickyに視線を投げかけると、Mickyは照れくさそうな笑みを浮かべ、Richardは「行くのか?」と問いたげな表情を浮かべている。
 僕はそんな二人の表情に、何故か頑なに「一人でも踊ってやる」という、強い決意を胸に秘めつつ、そのまま一歩を踏み出していた。
「みんなも踊ってみる?」
 そんなRichardの問いかけが耳に入ったが、気にせず歩みを進め、フロアに入ると、直美たちの視線も気にせず踊り始めた。正確に言えば、この時すでに、オールディーズにもダンスにも特に興味の無い知り合い三人の事は、脳裏に無かったと言ったほうが正しいかもしれない。ここに通いだしてから、赤の他人であれ、この”踊る”と言う行為に、羞恥心を覚えた事は一度たりとも無い。もちろんここに誘ってくれたRichardやMickyの二人がともに踊ってくれた事も、当初は羞恥心を抑える一因になっていたのかもしれない。だが、一つステップを覚えるたびに、僕の踊りに対する喜びと言うか、楽しみは、それが本来の姿であるかのように板についていった。前世は踊りを生業とした、いわゆる一所不在の”芸能の民”であったのではないかと思えるほどだ。今の僕なら、恐らくダンスフロアに僕しか居ないとしても踊れるだろう。
 この曲のダンスの、正確な名前は知らない。もしかすると、名前さえないのかもしれない。ただ前に四歩進み、すぐに後ろ向きのまま四歩下がり、続いて一歩踏み出した右足に左足を添えるという、実に単純なものだ。それだけに、動き一つでダンスに見えなくなってしまう。
 昔顔見知りの人間に、「ダイアナのダンスは簡単で覚えやすい」と、すこし蔑みのこもった口調で言われたことがある。もちろん僕はダンスを本格的にやっている人間ではないから、ほかのダンスのステップが如何に難しいだとか、ここのステップが如何に単純で短調なものなのかなど、知る由も無い。だが、簡単なステップほど、格好良く見せるのは難しいというのが、僕の持論だ。ここに来ている客の中でも、格好良く踊れるのは、ほんの一握りでしかない。僕がその一握りに入っているなどという傲慢な考えは持っていないがと前置きした上で、覚えるのと格好良く踊るのは違うと、言ってやると、そいつはそれ以上何も言おうとはしなかった。

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*この小説はフィクションです。登場する人物・団体名は架空のものです。
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