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  • 08/25/02:27

08.26.00:08

小説 ~Lover Shakers~ autumn season Vol.1 その2

 席に近付くにつれ、Mickyの表情が、はっきりと見て取れるようになった。その顔は、少々呆れ気味である。Richardが姿を消した理由が、さして大事ではないと分かった僕は、心の中でほっと胸をなでおろした。
 Mickyの話によれば、Richardは入り口、レジカウンター隣の公衆電話で電話中との事だった。これだけ長い間話をしていると言う事は、相手は女に違いない。正確に誰かまではわからないが、それだけは断言できる。その相手についても、おおよその見当はつく。
 Richardには、高校時代から思いを寄せている女性が居る。実を言えば、Richardは高校時代に一度、そして社会人になってからもう一度と、二回告白をして、ことごとく振られている。それでもこうして、電話が出来る仲で有り続ける事が出来る関係を維持しているのだ。普通で考えれば、嫌がられ、疎まれそうなものだが、そうならないのは、Richardの人柄と言うか、不思議な魅力のなせる業なのかもしれない。とても、僕には真似出来そうに無い。いや、おそらくほとんどの人間が、不可能では無いだろうか。
 ニール・セダカの”恋の片道切符”を耳にしながら、そんな事を考えていると、Richardが悪びれた風もなく、澄ました顔で帰ってきた。もうすぐステージが始まると言うころだ。自由奔放にもかかわらず、どこか憎めないというところも、彼の特技なのだ。
「相手は由美子か」
 座ろうとするRichardを小突きながら、Mickyが冷やかすような口調で訊いた。
「そうだよ」と答える彼の顔には、なぜ分かるんだと書いてあるようでもあり、何か言い事があったのか、喜びを隠し切れないといった感じだった。由美子とは、もちろん先述した女性の事である。
 何をそんなにしゃべる事があるんだ等と、心配した分だけいたぶっているうちに、ステージが始まった。このステージ最初の曲はRichardの浮かれた心を見透かしたかのような、アネット・ファニセロの”パイナップルプリンセス”。南国の雰囲気を髣髴とさせる、陽気で軽快なメロディのナンバーだ。Richardの歓喜が伝染したのと、女性ヴォーカルの楽しげな歌声も後押しして、僕たちは終始笑顔で、このステージを踊り続けた。

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*この小説はフィクションです。登場する人物・団体名は架空のものです。
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08.24.00:01

小説 ~Lover Shakers~ autumn season Vol.1

 ステージが終わり、僕とMickyが席に戻った後も、しばらくRichardは席に戻ってこなかった。周囲を見回してみたが、若い女性客の周辺にもその姿は無い。そんなに飲みすぎている様子もなかったし、体調が悪いそぶりも見せていなかったので、そんなに気にも留めず、僕とMickyは談笑していた。
 だが、さすがに三十分も姿を現さないと、さすがに気になる。僕がMickyにトイレを見てくると告げると、Mickyはレジに行って見かけなかったか訊いて来ると言って、二人同時に席を立った。
 今日の僕達の席は、カウンター席の真下で、一番通路側の席だ。Mickyと別れて、トイレへとすすむ中で、僕の頭の中では、ある不安が浮上していた。
 Richardは僕達の中で、一番激し易い性質である。以前に、この店の古株であるローラーチーム、マジックトーンズと一悶着あった事もあって、なにかトラブルに巻き込まれたのではないかと感じたのだ。マジックトーンズとはその件以来、何度か店で顔を合わせてはいるが、特に何事もなく、関係は良くも悪くも無い。だからと言って、安心は出来ないし、また全く関係の無いただの酔っ払いに絡まれているのかもしれない。高まる不安に、僕の歩調は自然と早まって行った。
 トイレのドアの前まで来たが、言い争う声も、物騒な物音も、特に聞こえない。僕はゆっくりとドアを開けた。
 すると、ちょうどトイレを出ようとしていたカマキリを思わせる容姿の、マジックトーンズのメンバーと出くわした。向こうも、僕と出くわしたというよりは、ドアを開けようとした瞬間に、ドアが開いた事にギョっとしたようで、少し体をのけぞらせて目を白黒させていたが、目の前に居るのが僕と分かると、仏頂面で目だけをぎょろりと動かし、見下すような目で僕を見て、そのまま横をすり抜けていった。
 僕はカマキリを呼びとめ、僕の連れを見なかったかと、訊いてみた。カマキリは首だけ回して細い目で僕を見ると、小さく首を振ると足早に去っていった。その不敵な表情からは、知っているのか、本当に知らないのかは定かではなかったが、僕はもう一度と入れのドアを開き、中を確かめた。小便器二つに手洗いが一つと、奥に個室のトイレがあるだけの小さなトイレである。すぐにRichardの姿が無いことは確認できた。個室もドアが開いているので、誰も居ない。
 何処に行ったんだろうと、僕は独り言のように呟くと、トイレを後にした。
 通路に出ると、僕はもう一度店内を見回してみた。だが、僕達の席はもちろん、他のテーブルにもRichardの姿は見出せない。ただ、僕達の席にはすでにMickyが戻っており、僕はとりあえず席へと向かった。

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08.01.23:09

小説 ~Lover Shakers~筆者から一言

 オールディーズ及びダンスを愛する皆様、おはよう、こんにちは、こんばんわ。

 22回目をもって、架空のLover Shakersの物語は、一つの終焉を迎えました。読んでくださった方、どうもありがとう。
 あくまで一つのエピソードの終わりであって、完全な完結ではありません。また、彼らの活躍を文章にしていきたいと思っています。その時はまた、どうぞよろしく。

 今回、この物語を書こうと思ったきっかけは、僕らが神戸ケントスをはじめとした、ライブハウスで感じた楽しさを、少しでも皆さんに分かっていただけたらと思い、書き始めました。ブログに直接書きながら、パソコンのワードにもコピーをとるという作業でした。ワードの文字カウントという機能を使って調べたところ、原稿用紙換算で88枚、約31000文字の作品となりました。
 正直なところ、ほとんど推敲(文章や、言葉のチェック)をせずに、書いたままを公開しているので、読みづらい部分や、誤字脱字等も有ったかも知れません。どうかご容赦ください。
 書いてゆくに当たって苦労したのは、やはり音楽です。オールディーズに慣れ親しんでいる方は、曲名を聞いただけで、頭の中でメロディーが流れるのでしょうが、知らない方にはチンプンカンプンだったことでしょう。あまり曲の説明を入れすぎても、話が停滞してしまうと思い、とりあえずあんな形になりました。

 どれほどの方に、この楽しさが伝わったかは分かりませんが、ライブハウスというものに、少しでも興味をもたれた方がいたならば、僕にとっては万々歳です。

 今回のエピソードも、今後推敲を重ねた後に、「完全版」として、何らかの形で公開したいと考えています。「じゃあ、このブログのは不完全なのかよ」という声が聞こえてきそうですが、仰る通りなので、返す言葉も御座いません。

 では、また。ごきげんよう。さようなら。

                                                               2007-8-2    Jerry

 

08.01.00:30

小説 ~Lover Shakers~その22

 澱んだ雲が空を覆い、月も星もその姿を現さない夜。ともすれば、塞ぎがちになりそうな天候のこんな夜にもかかわらず、僕らの心は、春の晴天のように晴れやかだった。日中はまだ名残惜しそうに、夏の日差しが容赦なく照り付けてはいるが、太陽が地の底へと姿を消すと、嘘のようにさわやかで心地の良い秋風が、僕たちの頬をやさしく撫でる。
 目の前には、約一月半ぶりに目にする、”LIVE HOUSE DIANA”のネオンサイン。僕たちは感慨深げにそれを眺めていた。よもや、こんなに早く、再びお目にかかれるとは思っても見なかった。まるで、長い間ふるさとを留守にしていた人が、ようやく帰郷が叶ったような感動に、僕たちは包まれていた。
「行くか」
 そんな僕らに、Mickyが声をかけた。ドアを開け、階段を下れば、いつもと変わらない空間が僕たちを待っていてくれるはずだ。恋人に会うときに似たときめきを胸に抱きつつ、僕らは階段を下りてゆく。一段降りるにつれ、店から漏れるBGMが、微かに僕の耳をくすぐる。
 曲は”カモン・レッツ・ゴー”。リッチーバレンスが僕たちに「早く行こうぜ」と言ってくれているようで、なんとも良い気分だった。
 ドアを開けると、待ち構えたように室井さんの姿があった。電話の時に想像したのと同じ様に、米搗きバッタさながら、僕たちに何度も謝罪の言葉を繰り返し、いい加減うんざりした僕たちは、ほとんどVIP待遇のような状態で、ステージ正面のソファー付きの席に着いた。
 今日は店の奢りと言ってきたのを、そこまでしてもらっては、かえって気が引けると固辞し、では、これだけでもと、持ってきたブランデー”クルヴァジェ”だけ、ありがたく頂いた。
 フードのオーダーをMickyとRichardに任せ、僕はカウンター席に清水さんの姿を探した。MickyとRichardの電話の後、僕は清水さんにお礼の電話を入れ、もし迷惑でなければ会って御礼がしたいのでと、ダイアナに来てくれるよう頼んだのだ。清水さんは、時間は分からないが、必ず行くと快諾してくれた。
 見回してみてもその姿はなく、カウンター席まで足を運んでみたが、その姿は無かった。一応テーブル席も一通り見たが、やはり居ない。
 仕方なく、僕は席に戻ると、ブランデーの甘い香りが僕の鼻をくすぐった。僕たちは、この記念すべき日を祝って、高らかに乾杯をした。

 清水さんの姿を見つけたのは、3回目のステージが終わった頃だった。気付いた時にはカウンター席に座っていた。聞いてみると、ステージ中に店に来たらしい。どうしても外せない用事が長引いて、来るのが遅れたのだそうだ。僕たちは改めて礼を言い、同じテーブルに来てもらえるように頼んだが、せっかくの友達同士の楽しい時間を邪魔するような、野暮な真似はしたくないと、断られてしまった。それに明日も朝が早いので、次のステージが終わり次第、帰るのだと言う。僕は、忙しい中来てくれた事に、改めて感謝の意を述べた。
 そして、僕たちが神戸に復帰できた、奇跡の顛末について聞いてみた。
 清水さんは少し照れたように笑い、「奇跡なんて、種を明かせば大抵つまらない物さ」と答えた。
 そして最後に、これはお願いなんだがと、付け加えた上で、こんな事を言った。
「あいつらも、元はただのダンス好きの良い奴なんだ。ただちょっと天狗になっていたんだろうな。店にも単なる人違いと言うことで、あいつらも何の処分も受けずに、この店に出入りできるようになっている。どうか腹の虫を押さえて、何も無かったことにしてもらいたい」
 僕らは、清水さんがそういうならと、その申し出を快く引き受けた。

 この日4度目のステージが始まろうとしていた。僕たちは、今日始めて、前回同様Lover Shakers名義でリクエストを出していた。曲はもちろん”ツイスト・イン・ザ・ナイト・アウェイ”。
 ハウスバンドがステージに上がり、照明が落とされる。僕たちはわくわくしながら、始まりの時を待っていた。
 ドラムの連打から、サックスのご機嫌なメロディーが続く。僕たちのリクエスト曲だ。待っていましたとばかりにダンスフロアへと飛び出してゆく。
僕たちはフロアの中央を無事確保した。その隣には清水さんの姿も見える。僕たちは互いに笑顔を見合わせながら、軽快なテンポのステップを踏んでゆく。もうすでに2ステージ踊っているが、今改めて、帰ってきたのだという実感に包まれていた。このダンスでは、ステップを踏みながら四十五度づつ体の向きを変えるというステップがある。それを2回繰り返したときに、フロアに溢れるみんなの笑顔が見えた。僕たちのステップに喝采を上げる人。見よう見真似でステップを踏む人。思い思いに体を動かす人。そのどれもが、僕たちの帰還を祝福してくれているようで、最高の気分だった。
 曲が終わりに近付くと、突然女性ヴォーカルがマイクを取ると、僕たちに手をかざし、
「この曲のリクエストは、Lover Shakersの皆さんでした」
と、特別に紹介までしてくれた。恐らく室井さんの計らいだろう。僕たちはすこし照れつつも、大きく極めのポーズをとった。
 店全体に、拍手が溢れた。


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07.30.23:15

小説 ~Lover Shakers~その21

 失意のまま、休みが明けた。僕を今突き動かしているのは、まだ心の片隅に残っている、微かな希望の炎だけだった。
 僅かではあるが、僕はまだ清水さんのあの言葉を信じている。そこにしかすがる場所が無いからという理由だけでは有るが。それはまるで、断崖絶壁に生えている、枯れ木の枝にしがみついている様なものだった。いつ折れてもおかしくは無い。だが、僕が今その手に掴めるのはそれしか無いのだ。
 プライベートが上手くいっていなければ、仕事なんて面白いわけが無い。僕が働いているのは、週末の楽しみの為だけと言っても過言では無い。面白くも無い仕事を淡々とこなし、日時を無為に過ごしてゆくという日が、4日ほど続いた。
 未だに清水さんには連絡できずにいた。結果を知るのが怖かったというのが、一番の理由かもしれない。告白すれば振られるのが分かっていながら、それでもその娘に思いを伝えずにはいられないという状況に似ていた。
 いよいよ週末目前という金曜日になっても、僕の気持ちは晴れなかった。踊りに行けない週末なんて、冷えたカレーライスみたいなものだ。
 もちろんその気になれば、何処であろうと踊りに行けない事は無い。だが、今はとてもそんな気になれなかった。神戸の結果が出なければ、いつまで経っても僕の気持ちは晴れそうに無い。
 今日こそは電話してみよう。
 僕はそう決意して、今週最後の仕事へと向かった。
 その夜の事だった。残業をこなして7時半ごろに帰宅した僕は、清水さんに電話する勇気を奮い立たせる為に、500mlの缶ビールを2本あけていた。
 よし、電話するぞ。自分を奮い立たせる為に、わざと言葉にしながら電話に向かったその時、いきなり電話のベルが鳴った。
 まるでドラマのような展開に、腰を抜かしそうになりつつも、僕は一呼吸置いてから、受話器を上げた。
「近藤さんのお宅でしょうか」
 近藤とは僕の苗字だ。電話の声は聞き覚えのある声。だが、清水さんではない。誰だろうと、頭の中を整理しつつ、「はい」と答えた。
「お世話になっております。神戸ダイアナの室井と申します」
 僕の中で、記憶の糸が確実に、音を立てて繋がった。相手は室井店長である。聞き覚えがあるはずだった。だが、いつもと声のトーンが違う。それが、すぐに分からなかった理由だった。
 僕が用件を聞くと、室井店長は受話器の向こうで頭を下げているのが想像できるほど、恐縮した声で、今回の入店禁止の原因となった相手が、誤解だったかもしれないと、立て続けに申し出を取り下げて来た為に、今回の件は無かった事にして頂きたいと言い、「良く確認もせず失礼を致しまして、誠に申し訳御座いませんでした」を何回も繰り返していた。
 真っ暗闇の中で、突然降り注いだ陽光に目をやられたかのように、しばらく呆然としていた僕は、ようやく我に返り、「もう済んだことですから」と言って、米搗きバッタのような室井さんをねぎらったあと、受話器を置いた。

 僕の電話はその後も立て続けに2回、けたたましくベルを鳴らす事となった。相手はもちろん、MickyとRichard。二人にも室井さんから電話が行ったのだろう。二人とも狂ったように歓喜を前面に押し出し、同じように「お前のおかげだ」を何度も繰り返した後、同じように「明日行くぞ」と言って、こちらの都合も聞かずに、電話を切るのだった。
 もちろん僕の心も決まっている。僕の頭の中では、まるで洪水のようにお気に入りのオールディーズナンバーが流れ出し、遠足前の子供のようにいつまでも寝付けないまま、夜を過ごしたのだった。

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