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  • 05/16/08:47

08.01.00:30

小説 ~Lover Shakers~その22

 澱んだ雲が空を覆い、月も星もその姿を現さない夜。ともすれば、塞ぎがちになりそうな天候のこんな夜にもかかわらず、僕らの心は、春の晴天のように晴れやかだった。日中はまだ名残惜しそうに、夏の日差しが容赦なく照り付けてはいるが、太陽が地の底へと姿を消すと、嘘のようにさわやかで心地の良い秋風が、僕たちの頬をやさしく撫でる。
 目の前には、約一月半ぶりに目にする、”LIVE HOUSE DIANA”のネオンサイン。僕たちは感慨深げにそれを眺めていた。よもや、こんなに早く、再びお目にかかれるとは思っても見なかった。まるで、長い間ふるさとを留守にしていた人が、ようやく帰郷が叶ったような感動に、僕たちは包まれていた。
「行くか」
 そんな僕らに、Mickyが声をかけた。ドアを開け、階段を下れば、いつもと変わらない空間が僕たちを待っていてくれるはずだ。恋人に会うときに似たときめきを胸に抱きつつ、僕らは階段を下りてゆく。一段降りるにつれ、店から漏れるBGMが、微かに僕の耳をくすぐる。
 曲は”カモン・レッツ・ゴー”。リッチーバレンスが僕たちに「早く行こうぜ」と言ってくれているようで、なんとも良い気分だった。
 ドアを開けると、待ち構えたように室井さんの姿があった。電話の時に想像したのと同じ様に、米搗きバッタさながら、僕たちに何度も謝罪の言葉を繰り返し、いい加減うんざりした僕たちは、ほとんどVIP待遇のような状態で、ステージ正面のソファー付きの席に着いた。
 今日は店の奢りと言ってきたのを、そこまでしてもらっては、かえって気が引けると固辞し、では、これだけでもと、持ってきたブランデー”クルヴァジェ”だけ、ありがたく頂いた。
 フードのオーダーをMickyとRichardに任せ、僕はカウンター席に清水さんの姿を探した。MickyとRichardの電話の後、僕は清水さんにお礼の電話を入れ、もし迷惑でなければ会って御礼がしたいのでと、ダイアナに来てくれるよう頼んだのだ。清水さんは、時間は分からないが、必ず行くと快諾してくれた。
 見回してみてもその姿はなく、カウンター席まで足を運んでみたが、その姿は無かった。一応テーブル席も一通り見たが、やはり居ない。
 仕方なく、僕は席に戻ると、ブランデーの甘い香りが僕の鼻をくすぐった。僕たちは、この記念すべき日を祝って、高らかに乾杯をした。

 清水さんの姿を見つけたのは、3回目のステージが終わった頃だった。気付いた時にはカウンター席に座っていた。聞いてみると、ステージ中に店に来たらしい。どうしても外せない用事が長引いて、来るのが遅れたのだそうだ。僕たちは改めて礼を言い、同じテーブルに来てもらえるように頼んだが、せっかくの友達同士の楽しい時間を邪魔するような、野暮な真似はしたくないと、断られてしまった。それに明日も朝が早いので、次のステージが終わり次第、帰るのだと言う。僕は、忙しい中来てくれた事に、改めて感謝の意を述べた。
 そして、僕たちが神戸に復帰できた、奇跡の顛末について聞いてみた。
 清水さんは少し照れたように笑い、「奇跡なんて、種を明かせば大抵つまらない物さ」と答えた。
 そして最後に、これはお願いなんだがと、付け加えた上で、こんな事を言った。
「あいつらも、元はただのダンス好きの良い奴なんだ。ただちょっと天狗になっていたんだろうな。店にも単なる人違いと言うことで、あいつらも何の処分も受けずに、この店に出入りできるようになっている。どうか腹の虫を押さえて、何も無かったことにしてもらいたい」
 僕らは、清水さんがそういうならと、その申し出を快く引き受けた。

 この日4度目のステージが始まろうとしていた。僕たちは、今日始めて、前回同様Lover Shakers名義でリクエストを出していた。曲はもちろん”ツイスト・イン・ザ・ナイト・アウェイ”。
 ハウスバンドがステージに上がり、照明が落とされる。僕たちはわくわくしながら、始まりの時を待っていた。
 ドラムの連打から、サックスのご機嫌なメロディーが続く。僕たちのリクエスト曲だ。待っていましたとばかりにダンスフロアへと飛び出してゆく。
僕たちはフロアの中央を無事確保した。その隣には清水さんの姿も見える。僕たちは互いに笑顔を見合わせながら、軽快なテンポのステップを踏んでゆく。もうすでに2ステージ踊っているが、今改めて、帰ってきたのだという実感に包まれていた。このダンスでは、ステップを踏みながら四十五度づつ体の向きを変えるというステップがある。それを2回繰り返したときに、フロアに溢れるみんなの笑顔が見えた。僕たちのステップに喝采を上げる人。見よう見真似でステップを踏む人。思い思いに体を動かす人。そのどれもが、僕たちの帰還を祝福してくれているようで、最高の気分だった。
 曲が終わりに近付くと、突然女性ヴォーカルがマイクを取ると、僕たちに手をかざし、
「この曲のリクエストは、Lover Shakersの皆さんでした」
と、特別に紹介までしてくれた。恐らく室井さんの計らいだろう。僕たちはすこし照れつつも、大きく極めのポーズをとった。
 店全体に、拍手が溢れた。


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*この小説はフィクションです。登場する人物・団体名は架空のものです。

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