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  • 03/10/19:53

08.26.00:08

小説 ~Lover Shakers~ autumn season Vol.1 その2

 席に近付くにつれ、Mickyの表情が、はっきりと見て取れるようになった。その顔は、少々呆れ気味である。Richardが姿を消した理由が、さして大事ではないと分かった僕は、心の中でほっと胸をなでおろした。
 Mickyの話によれば、Richardは入り口、レジカウンター隣の公衆電話で電話中との事だった。これだけ長い間話をしていると言う事は、相手は女に違いない。正確に誰かまではわからないが、それだけは断言できる。その相手についても、おおよその見当はつく。
 Richardには、高校時代から思いを寄せている女性が居る。実を言えば、Richardは高校時代に一度、そして社会人になってからもう一度と、二回告白をして、ことごとく振られている。それでもこうして、電話が出来る仲で有り続ける事が出来る関係を維持しているのだ。普通で考えれば、嫌がられ、疎まれそうなものだが、そうならないのは、Richardの人柄と言うか、不思議な魅力のなせる業なのかもしれない。とても、僕には真似出来そうに無い。いや、おそらくほとんどの人間が、不可能では無いだろうか。
 ニール・セダカの”恋の片道切符”を耳にしながら、そんな事を考えていると、Richardが悪びれた風もなく、澄ました顔で帰ってきた。もうすぐステージが始まると言うころだ。自由奔放にもかかわらず、どこか憎めないというところも、彼の特技なのだ。
「相手は由美子か」
 座ろうとするRichardを小突きながら、Mickyが冷やかすような口調で訊いた。
「そうだよ」と答える彼の顔には、なぜ分かるんだと書いてあるようでもあり、何か言い事があったのか、喜びを隠し切れないといった感じだった。由美子とは、もちろん先述した女性の事である。
 何をそんなにしゃべる事があるんだ等と、心配した分だけいたぶっているうちに、ステージが始まった。このステージ最初の曲はRichardの浮かれた心を見透かしたかのような、アネット・ファニセロの”パイナップルプリンセス”。南国の雰囲気を髣髴とさせる、陽気で軽快なメロディのナンバーだ。Richardの歓喜が伝染したのと、女性ヴォーカルの楽しげな歌声も後押しして、僕たちは終始笑顔で、このステージを踊り続けた。

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*この小説はフィクションです。登場する人物・団体名は架空のものです。
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