07.28.00:32
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08.30.23:58
小説~Lover Shakers~Outside Storys Vol.2 11回目
あの夜、正直僕はもう二度とこの扉を開けるまいと思っていた。あれだけの醜態を晒してしまったのだ。それにあの男の顔も見たくは無い。
だが、気付いた時には、この場に立ってる。自分でもなぜ足を向けたのかも分からない始末だ。
どうやら僕は今、二つの病に犯されているらしい。
一つはダンスフロアに立つことが出来なくなった事。
もう一つは、ダイアナ依存症だ。
この相反する二つの病が、僕の深層心理の中で対峙しているのだ。
そうでなければ、この状況の説明がつかない。
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08.29.23:07
小説~Lover Shakers~Outside Storys Vol.2 10回目
僕は彼を無視するように自分の席の前に立つと、グラスに残った水割りを飲み干し、タバコとライター、それに伝票に手を伸ばした。
「腹が痛いならそう言えよ」
口元に笑みをたたえたRichardは、心底可笑しそうにそう言った。まるで僕を悩ませる嘲笑のように。
僕は思わず、「違うよっ!」と叫んでいた。
僕のあまりの剣幕に気圧されたのか、Richardは元々丸い瞳をさらに丸くしていた。
「じゃあ、何なんだ。あの慌てようは…」
彼の丸い瞳が、怪訝に細まる。
「お前には関係ない」
この騒ぎに、さすがに周囲も感づいて、数多くの視線を感じていたが、今の僕の精神状態は制御不能だった。
「おい。待てよ」
Richardの制止の声にも応えずに、僕は足早にその場を後にした。
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08.28.22:13
小説~Lover Shakers~Outside Storys Vol.2 9回目
しかし今日のトイレへの道は長い道のりだった。なにしろ腰が抜けてしまったかのように、はたまた酔い潰れた中年男性(すでに自分もその部類に入っているのだろうが、認めたくは無い)のように、足が思うように前に出ない。ふらふらとよろけては、他人のテーブルやソファに手を突いてしまう。心に余裕が無いから、「すみません」の一言も言えずに、辛うじて頭だけを下げる。その度に、相手は哀れみとも蔑みともとれる視線で僕を見る。刺すような視線も時折感じる。僕は逃げるように、トイレへ駆け込んだ。
どれくらいの時間、トイレの個室に篭っていたのだろうか。僕がようやくいくらか平静を取り戻し、トイレの扉を開けた時には、すでにステージは終わっていた。
僕をあんな目に合わせたRichardの顔など見たくなかったので、このまま席にも戻らずに帰ろうかとも思ったが、あいにくタバコとライターを置いたままだった。タバコはともかく、ライターは永い間愛用してきたジッポーライターだけにおいて行く訳にもいかない。
僕は憂鬱な気持ちで、カウンターへと足を運んだ。
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08.27.22:48
小説~Lover Shakers~Outside Storys Vol.2 8回目
立っているのも辛くなり、頼りない足取りで踵を返そうとしたその時、自分の右足に左足がからまり、僕は無様に倒れた。
だから、嫌だって言うのに―
心の中でRichardに対して悪態をついたとき、僕の耳の中で微かに嘲笑が響いた。這いつくばったまま視線を上げると、すぐ脇のテーブルに腰掛けている女性が慌てて顔を背けたように見えた。
僕の脳裏に直接響くように、次々と嘲笑がこだまする。
蔑みに満ちた、罵詈雑言。
いかなる者をも凍てつかせる、蔑視。
絶える事の無い、哄笑。
その全てが僕に覆いかぶさってくる。
押し潰されそうな僕の肩を、誰かが優しく叩く。視線を向けると、そこにはRichardがいた。
「大丈夫か?」
彼はそう言ったのかもしれない。でも、今の僕にはよく聞き取る事ができなかった。それにもう、フロアには1秒たりとも居たくなかった。僕は彼の手を振り払い、急場の避難場所としてトイレを目指した。
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08.26.23:10
小説~Lover Shakers~Outside Storys Vol.2 7回目
ダンスフロアに一歩近づくたびに、僕の鼓動は加速度的に早まり、心なしか音まで大きくなっているような気さえする。膝はもはや僕の意思を離れ、彼が背中を押していなければ、その場に崩れ落ちそうなほどか弱い。
「まって、ちょっとまって」
僕は力なくそう叫ぶのだが、Richardは全く意に介さずと言った感じで、ぐんぐん押してくる。
「いいから、いいから」
なんて奴だ。僕が心の中で悪態をついた時には、すでにフロアに足を踏み入れていた。隣では能天気にRichardが踊っている。その姿が時折溶けた飴細工のようにぐにゃりと曲がって見える。僕は絶望とはこう言うものなんだろうなと、まるで他人事のように考えていた。
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