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  • 07/30/19:45

08.25.22:58

小説~Lover Shakers~Outside Storys Vol.2 6回目

 本日3回目のステージは、ジャンニ・モランディの♪サンライト・ツイスト♪。サックスの小気味良いメロディではじまる、ツイストナンバーだ。
 Richardは勢い良く椅子から滑り降りると、怪訝そうに僕を見た。
「行かないのか?」
 彼の声は、聞き取れるか聞き取れないかと言うほどの大きさだったので、ぼくは聞こえない振りをして、ステージの方を向いていた。
「踊らないのかぁっ」
 今度の声は馬鹿でかかく、思わず僕は目を剥いて彼を見た。おそらく僕の体は、驚きのあまり、椅子から10センチは浮いていたはずだ。とても聞こえない振りは出来ない。
「いえ…」
 やや気圧された僕は、消え入りそうな声でそう答え、あわせて首を横に振った。
「馬鹿言うな」
 Richardはそう言うが早いか、僕の腕を掴むと、椅子からほとんど引き摺り下ろし、よろける僕の背中を押して、ダンスフロアへと押しやった。
「ここへ来て、踊らない奴があるか」
 僕の背後で、Richardが叫ぶ。
 じゃあ、聞くなよっ―
 僕は思わず、心の中で突っ込んでいた。

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08.24.22:56

小説~Lover Shakers~Outside Storys Vol.2 5回目

 男は自分の名前をRichardと言った。もちろんどう見ても日本人だ。彼に言わせれば、この店ではそれで通っているらしい。どうやら相当な常連であり、一風変わった男である事は間違いない。そう言われてみれば、見かけたことがある顔のようにも見える。
 僕も礼儀上名を名乗り、とりとめの無い世間話が始まり、いつの間にか今日の3rdステージが始まろうとしていた。
 いつも通り、バンドマンが一人また一人とステージに上がり、簡単な音合わせを始めている。客席からは、これから始まるステージを待ち望んでいたとばかりに、彼らに視線を注いでいる。
 数ヶ月前の僕も、彼らのように今や遅しと目を輝かせて、ステージを待ち望んでいたのだろう。だが、ステージに対する今のときめきは、あの頃の半分にも満たないのかもしれない。それでもこうしてこの場所にいる僕とは、いったい何者なのだろうか。

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08.23.23:34

小説~Lover Shakers~Outside Storys Vol.2 4回目

 それから男は一方的に、自分の話を始めた。
 今日は会社の若い者3人に混じって合コンに行っていたらしい。今回は珍しくいい娘ばかりが4人来ていて、トイレでの密談の結果、それぞれの狙いの女の子もバラバラという最高のシュチュエーションだった。しかし、3人ともそれぞれの相手と意気投合したものの、自分だけが相手に避けられ、仕方なく先に抜けてきたのだと言う。
「年を重ねた良さってのも有るよなぁ。それが分かっちゃいねぇ…」
 男は最後にそう付け加えた。
 どうやら僕も誰かに振られて沈んでいるのだと思われているらしい。だが、自分の身の上を説明するのも面倒なので、否定するのはやめにした。
「で、あんたは誰に振られたんだ?」
 男の問いにも、苦笑いを返すしかなかった。

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08.22.22:51

小説~Lover Shakers~Outside Storys Vol.2 3回目

「あんたも同じ口か」
 その声に弾かれた様に顔を上げると、一つ空けて隣の席には色黒で丸顔の男が座っていた。
 年は僕と同じくらいだろうか。顔が丸い為に太っているように見えるが、半袖の開襟シャツから覗く二の腕は実に筋肉質だ。良く見ると胸板もかなり厚い。太っているように見えるのは、小柄なせいもあるかもしれない。
 僕が漫然と見ていたのを、返事に窮しているととったのか、男は顔をくしゃくしゃにしながら大きく手を振った。
「いや。皆まで言うな。わかるぜ。辛いよなぁ」
 僕の何が分かったと言うのだろう。僕は少しムッとしながらも、愛想笑いを返した。社会人になってから十二年。ずっと営業をしてきただけに、相手が誰であろうと差し障りの無い対応をしてしまう。僕の悪い癖の一つだ。

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08.21.23:06

小説~Lover Shakers~Outside Storys Vol.2 2回目

 スピーカーからはカスケーズの『悲しき雨音』。美しいメロディの中を泳ぐように、悲しげな歌詞が流れてゆく。僕の心の中でもシトシトと雨が降っている。絶望的な暴風雨では無いにしても、止む気配は微塵も無い。
 『晴れる日もある』
 何かの映画で聞いた台詞も、何の気休めにもならない。現実にはそうかも知れないが、心の問題となると、話は全く別なような気がする。
 僕のガラス玉のような瞳に映っているのは、ライトアップされ、タバコをくわえた男が描かれた壁を背負ったステージ。そしてその前に広がるダンスフロア。店内はほぼ満席にもかかわらず、カウンター席に座っている僕にはその全貌が見える。
 ほんの数ヶ月前までは、僕はあのダンスフロアに立つためにこの店に通っていた。でも、今では席を立つときと言えば、トイレに向かう時と、店を出るときぐらいだ。数ヶ月前の僕に、どうして今の僕を想像できただろうか。
 そう、あの日を境に、僕はダンスフロアに足を踏み入れる事はおろか、最初の一歩も踏み出す事ができない体たらくだった。

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