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  • 01/26/06:06

05.10.21:00

小説~Lover Shakers~Outside Storys Vol.1その7

 ひさ兄がいつもの調子で、何の悪気も無く、何のわだかまりも感じず、何のヘンテツも無く、僕らの前に姿を現したのは、6時半の少し前。
 ヒロとべーやんの猛抗議にも動じずに、この日ひさ兄が初めて発した言葉は、
「主役はいつも遅れてくるもんだ」
だった。
 今日の主役は、成人を迎えた僕達じゃないのか。
 そんな疑問にも、ひさ兄は何処吹く風だった。

 僕達4人は、とりあえず腹ごしらえにと居酒屋に入り、1時間ほど過ごした後、いよいよダイアナへと向かった。
 すでに酔いが回りまくっている、恐らく新成人が大半を占めると思われる人ごみを掻き分け、繁華街からは少しだけ離れた場所にその店はあった。
 ビルの壁から突き出た、横に長い楕円形の看板には、”LIVE HOUSE DIANA”と書かれている。防音設備がしっかりしている為なのか、音はぜんぜん漏れていない。おじさん・おばさん御用達のカラオケ喫茶とはわけが違うようだ。
 ライブハウスと書かれてあれば、たとえあても無く、お酒を飲む店を探していたとしても、絶対に入る事は無いだろう。
 ひさ兄を先頭に、大きなクロムメッキの施されたガラス張りのドアを開け、地下へと続くダウンライトにぼんやりと照らされた薄暗い階段を下りていった。僕は田舎者のようにきょろきょろと視線を右往左往させ、壁に掛けられたモノクロのポスターを眺めていた。人物が分かったのは、マリリンモンローとジェームスディーン。でも、二人が過去の映画スターという以外は、何も知らない。
 過去の思い出に浸る中高年の為の店―
 階段を下りつつ、未だにこの店のイメージを膨らませる僕の脳裏に浮かんだのは、そんな言葉だった。

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05.07.21:54

小説~Lover Shakers~Outside Storys Vol.1その6

 僕からこの会話を切り出しておきながら、僕の興味はもうすでにそこには無かった。
 僕の目は、カウンター席にいる男性の背中に注がれていた。
 着古したブラウンの革ジャンに、ジーンズ。髪型は明らかにリーゼント。マンガやテレビで見た事はあっても、生で見るのは初めてだった。
 彼は絵に描いたような、言わば不良だった。それも過去からタイムスリップしてきたような。
 しかし、だからといって彼は、そういう類の人間がもつ、独特のピリピリとした緊張感や、周囲を脅えさせる威圧感と言うものを感じさせない不思議な男だった。今も、カウンターに居る老いたマスターと、笑顔を絶やさず談笑している。
 まるでスクリーンを切り出したような光景。
 僕の心臓は、早鐘をついている。
 かっこいい。
 陳腐な表現だが、これが僕が彼に抱いた感情を、もっとも正確に表現できる言葉だと思う。
 しばらくして彼が店を出るまで、僕の目は、彼に釘付けだった。


 当然の事だが、冬は闇が訪れるのが早い。
 弱々しい真冬の太陽が逃げ出し、星や月ではなく街の明かりが勢いを増した頃、僕達三人は肩をすくめながら、元町駅でひさ兄が来るのを待っていた。
 ひさ兄との待ち合わせは6時だったはずだが、待てど暮らせどひさ兄の姿は見えない。べーやんが、3回目になるひさ兄への電話を、無言のまま切った。
「やっぱり、でねぇや」
「えぇ?もう、腹減っちまったよぉ」
 ヒロの声は、愚痴と言うより、ほとんど悲鳴で、引っ込むはずの無い腹を懸命に抑えている。 
「そうか」
 僕は気の無い返事をした。実の所、ひさ兄の遅刻はいつもの事だった。早くても約束の時間の15分後、これまでの最長記録は1時間だった。その時はさすがに待つのをやめて、別の場所に居たら、平気な様子で電話をかけてきて、「今来たけど、お前ら何処に居るんだよ」と言う始末だった。それでも、たまに時間通りに来て、誰かが遅刻すると、ひどく怒るのだから性質が悪い。ひさ兄のルーズさを知っていながら僕達が時間通りに待ち合わせ場所に来るのには、そういう理由なのだ。ひさ兄が年上ではなく、世話にもなっていなければ、間違いなく付き合い方を考えていただろう。ひさ兄とはそういう人だった。
 だから、約束の時間に来ないで、連絡もつかないとなると、普通なら心配するところだが、僕は毛ほども心配などしていないのだ。

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05.04.17:16

小説~Lover Shakers~Outside Storys Vol.1その5

 座ると悲鳴を上げる、うらぶれた椅子に腰掛け、メニューも見ずにホットコーヒー二つと、ミックスジュース、それに入り口のショーケースででも見たのか、ピラフを注文した。ミックスジュースとピラフは、もちろんヒロの注文。ヒロは、僕とべーやんの「だから太るんだよ」という視線にも、動じた様子は無かった。
「おなか空いてない?」
これが、僕達の視線に対するヒロの答えだった。
「ひさ兄から、今日行く店……。ダイアナだったっけ?どんな店だか聞いてる?」
 僕の問いにべーやんは、困ったような表情で、頭を掻いた。まるでマンガの中のワンシーンみたい。分かりやすい態度。僕は心の中で舌打ちした。
(コイツ何にも聞いてないな……)
「聞いても教えてくれないんだよ。行ってからのお楽しみだとか何とか言って。とにかく、絶対に俺達が行った事のないような店だって」
 僕の心の中の舌打ちが聞こえたのか、べーやんは言い訳臭い口調で、そう言った。
 『俺達が行った事のない店』と言うのは、本当だろう。僕には想像する事すらできないのだから。べーやんとヒロにも聞いてみたが、僕の陳腐な想像と、そう対して変わらなかった。
 3人が共通している事は他にもあった。
 その不可思議な店に対して、二人とも何かを期待しているわけでもなく、過度な興味を抱いている訳でも無いと言う事だった。想像もつかない店を、話のネタに一度覗いてみよう。良い店なら瓢箪から駒。デートコースの一つにもなる。その程度の興味でしかないのだ。

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04.30.21:53

小説~Lover Shakers~Outside Storys Vol.1その4

 約1時間に及ぶ、大人になるための試練とも言うべき『成人式』が終わりを告げた。
 僕達三人は、檻から解き放たれた囚人のように、先を競って出口を求め、外に出てからは、何人か出くわした中学以来の顔見知りと、当たり障りの無い会話をし、彼らが発した「懐かしいな」と言う言葉に、顔見知りが年を取ったことを知る。
 たった数年前の事を振り返って、懐かしむなんて、年寄りのすることだと、僕は頑なに信じている。
 だから、僕は過ぎ行く顔見知りの背中に、こう呟く。
 サヨナラ、オジサン。

 時計の針は、まだ2時を少し回ったところで立ち往生している。
 ひさ兄との待ち合わせ時間は、午後6時。実のところ三人そろって、会場に到着するまで、終了の時間など知らなかったのだ。いい加減な三人。
 4時間と言う時間は、暇を潰すには長すぎるし、一度帰って出直すには短すぎる。
 僕達は協議の末、前者を選んだ。電車で三宮まで出て、目に留まった店でも覗きながら、と言う計画だ。
 しかし、そんないい加減な計画で、長い時間が潰しきれるわけがない。自分の脂肪に押し潰されそうなヒロなど、真夏に路上に落としたソフトクリームみたいに、今にも溶けて崩れてしまいそうだ。
 僕らは視線の中に入った喫茶店めがけて人を掻き分け、飛び込む。ヒロは、砂漠で見つけたオアシスでも見るような目をしている。
 飛び込んでは見たものの、軽やかなドアベルの音と共に閉まるドアの前で、僕達三人は思わず立ちすくんでしまった。
 古びれた店内は、外の雑踏が嘘のように静まり返っている。正確には、恐らくジャズと思われるピアノの軽やかなメロディが、控えめに流れている。客はカウンター席に一人。あとは『Reserved』という札が置いてあるかのように、人っ子一人居ない。
 一瞬引き返そうかとも思ったが、老女にしては背丈があり恰幅もいい、KONISHIKIを連想させるバアサン店員の、「さっさと座りな」とでも言いたげな目線に気圧されて、僕達はいそいそと窓際の席に追いやられた。

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04.27.22:14

小説~Lover Shakers~Outside Storys Vol.1その3

 大人達がすすめるものは、大抵つまらないものであり、この『成人式』というものも、その一つだ。
 会社の上司も、うちの親も、『一生に一度きりだから、きっと記念になる』という決まり文句で僕に勧めてくれたが、どうしようもなく退屈だった。
 市長だか社長だか知らないが、偉い人が前に立って、もっともらしい事を綺麗事でデコレーションして、自分を良く見せる為にトッピングした言葉を織り交ぜながら、スピーカーを通して、有害物質のように撒き散らしている。
 これはある意味公害だ。
 マスコミを喜ばせるだけの効果しかないのに、野次を飛ばしたり、行き過ぎた悪ふざけをする、イカれた新成人のように振舞う気は無いが、この場に来て初めて、ほんの少しだけその気持ちが分かったような気がした。この『成人式』が、もし半日に及ぶような式典なら、僕は間違いなく抜け出していただろう。
 僕の右隣のべーやんは始まった瞬間から、首の骨が折れそうなほど頭を振って寝ているし、左隣のヒロは、高校を出た途端にメタボリック目指してまっしぐらの小太りのボディが椅子に合わないのか、ひっきりなしにもぞもぞしている。
 僕はと言えば、今晩向かう店の事を考えていたのだが、僕の貧弱なイメージでは、あまり良いイメージは描けないようだ。
 一つは、体育館で行われた音楽会のように、ステージの上でオデコの面積の広いリーゼントをしたオジサン達が演奏しているのを、いくつかのテーブルに腰掛けたオジサン、オバサンが、昔を懐かしむような眼差しで見ているような店。
 もしくは、マンガの世界でしか知らない、ヤンキー(?)のようなバンドが演奏していて、同じように目つきが悪く、あまり健康的とは言えない、頭のネジが23本取れてしまったような若者が、タバコをふかし、貞操と言う文字とはかけ離れた女をはべらせているような店。
 でも、そのどちらもひさ兄とは結びつかないし、僕が気に入るわけも無かった。つまりは、どちらも本当の店とはかけ離れたイメージだと言う事だが、それ以上は、どう頭をひねってみても、思いつきそうに無かった。

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