01.26.03:12
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05.22.21:00
小説~Lover Shakers~Outside Storys Vol.1その11
だが、突然僕の視界からバンドが消えた。
消えたと言っても、本当に姿を消したわけでも、店が停電になった訳でもない。もちろん、僕が目を閉じた訳でもない。
僕とステージの間に、壁が出来たのだ。
ステージと僕達が座るテーブルの間にある不思議な空間に、決壊した堤防から流れ出すようにして、人が溢れ出したのだ。オジサンもオバサンも、若い僕よりも積極的に、リズムに体を委ねている。思い思いに踏むステップは、お世辞にもカッコいいとは言えないし、憧れとは程遠い。僕にとっては、バンドへの視線を遮る、無様な肉の壁と言ったところだ。
別に大好きなアーティストでもないし、大好きな音楽と言うわけでもない。それに肉の壁は騒音を立てているわけでは無いから、音に関して言えば、遮っている訳でもなければ、邪魔をしているわけでもない。
それでも何故か僕は、眼前に展開された肉の壁に対して、心の中で悪態をつかないわけにはいかなかった。
下手な踊りなど見たくない―
醜態を晒すな―
僕の楽しみの邪魔をするな―
等々。
4曲終了時のMCによれば、この時演奏された曲は、♪プリティーウーマン♪♪ハローメリールウ♪♪悲しき街角♪♪ダイナナ♪だそうだ。どれもミディアムテンポのリズムが心地よく、気持ちを高ぶらせてくれるナンバーばかりだったが、肉の壁のせいで、その半分も僕は楽しめなかったように思う。そして当然のことながら、どの曲も僕が始めて耳にするナンバーだった。
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05.19.23:09
新メンバー登場!?
Jerryの3人目の子供が誕生したのだ。
名前もまだ正式に決まっては居ないけれど、Lover Shakers Kidsのメンバーと言う事は、すでに決まっている。
おふざけはこの辺にして…
実を言うと僕(Jerry)はこの年になるまで、子供が生まれる瞬間と言うものを、リアルタイムで見た事が無かった。一人目も、二人目も、仕事をしていて、生まれた後に見に行っただけだ。
今回は立会い出産では無いが、出産のもようを、別室で画面と言うフィルター越しに見ていた。
で、感じた事。
やっぱり、生命の誕生ってすごい。
今回は正直なところ、予定外の妊娠だった。
経済的にも、二人が精一杯と考えていた僕達にとって、三人目の妊娠というのは、実にショッキングな出来事だった。
正直、不安も無い事はない。
でも、そんなものを一瞬にして吹き飛ばすパワーがそこにはあった。
とにかく嬉しい。
陳腐な表現かもしれないが、この一言に尽きる。
この先大変な事はあるだろうけど、
ともかく、5人で笑っていられれば良いなと思う。
とりあえず
妻へ
ありがとう。
05.19.21:00
小説~Lover Shakers~Outside Storys Vol.1その10
「いよいよ始まるぜ」
ひさ兄の顔は、暗くても紅潮しているのが分かるほど、いきいきとしていた。
思えば、僕に佐野元春を教えてくれたのも、ひさ兄だった。
当時の僕は、ヒットチャートを賑わせていた、ローラースケートを履いたり、無理矢理バンド路線で売り出したアイドルや、やくざドラマで一世を風靡した歌手、それにがなり立ててうるさいだけにしか聞こえないバンドなんかには、ぜんぜん興味が湧かなかった。 もっと僕らしいもの。
僕はずっと探し続けていた。
そんな時、ひさ兄の部屋で見つけた『ナポレオンフィッシュと泳ぐ日』の芸術的なパッケージ。そしてひさ兄の「それ聞いてみるか」と言う言葉。その出会いが無ければ、僕は佐野元春とは、今も巡り合っていなかったかも知れない。
そんな、ひさ兄が期待に胸を膨らませ、僕に薦めた音楽を演奏している店。
僕は心の奥底で、どこか期待していたのかもしれない。
照明が落ちるのと、BGMのボリュームが下げられ、静けさが訪れたのは、ほとんど同時だった。不思議なことに、客同士の会話さえ聞こえない。奇妙な緊張感を覚えた僕の視線は、ステージに釘付けになった。
強力なスポットライトがステージを照らし、力強いドラムの音が静寂を打ち破る。続いてエレキギターが、聞き覚えのあるメロディを奏で始める。
この曲は、リチャードギアとジュリアロバーツの古い映画。日曜の夜のテレビでやってたのを、両親が見ていたときに流れていた曲。映画の題は確か『プリティーウーマン』だったかな?話の内容は覚えていないけれど、この曲だけは確かに記憶の中にある。気持ちを高揚させる為に緻密に計算されたかのようなメロディとリズム。僕の足は僕の意思とは関係なく、リズムを刻み始めた。
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To be continued
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05.16.21:55
小説~Lover Shakers~Outside Storys Vol.1その9
ヒロとべーやんが、メニューらしき紙切れに夢中になっている間、僕はもう一度店内を見回していた。壁には間接照明に照らされた、往年のスター達(?)らしきモノクロのポスターが額に収まって散りばめられている。確かに店の雰囲気としては落ち着いていて、僕好みかもしれない。BGMも耳に心地よく、薄汚れた現実世界から遠ざかり、どこか別世界にやって来たかのような錯覚を覚える。
ただし、客層は別だった。
予想通りの、オジサン・オバサンの、欲の皮の突っ張った脂ぎった顔。祝日と言うのに仕事帰りなのか、オジサンに連れられた、スーツ姿の若者の作り笑顔。刹那的な快楽を追求することしか念頭に無い、厚化粧で年齢不肖な女達。ここから見える限りでは、僕の想像の中のイメージとさして変わらない。どれもこれも、つまらない日常を見せ付けられているようで、せっかくの雰囲気を貶める役にしか立っていない。薄暗く良く見えないのが、せめてもの救いだ。
総合すると、僕はこの店が好きでも嫌いでもない。そう言う事になる。この時の僕には、この先、この店に通いつめる事になるとは、想像すらできなかったのだった。
店のルールである一人1フード(料理1品)を適当に注文し、それらが全て揃ったころ、僕達の前面にあり、周囲の暗さと相まって、一際光り輝くステージに、一人、また一人と、バンドのメンバーが現れてきた。メンバーは揃いの襟の大きな黒いシャツ(こういうシャツを開襟シャツと言うことを僕が知ったのはずいぶん後のことだ)の上に赤いジャケット、黒のスラックスを着て、頭はあの喫茶店で見たようなリーゼントをしている。
音合わせの軽い音が、ギターやドラムセットからもれる。これからどんな音楽が演奏されるのかさえ知らない僕だが、こうして生の音を聞くと、少し鼓動が高鳴る。
何かが起こりそうな予感―
どんな音楽にも、そんな気持ちにさせる力が宿っているのかもしれない。
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05.13.22:51
小説~Lover Shakers~Outside Storys Vol.1その8
ひさ兄がドアを開けると、どこかのCMで耳にしたようなメロディが静かに流れていた。ドアを入ったところから見えるのは、左手のレジカウンターと、右手奥のバーカウンターがちらりと覗いている。階段同様、ここもやはり薄暗い。ここから見る限りはとてもライブハウスには見えない。小さなちょっとお洒落なバーといった感じ。
そんな事を考えている間に、いつのまにか近づいてきていたウェイターに誘われて、僕達4人はバーカウンターの方へと歩みを進めた。
薄暗い店内でその存在を誇示するかのような、さめるような黄色地に表の看板と同じデザインの店のロゴがバックプリントされたシャツは、カウンターの手前で、おもむろに右に曲がった。
黄色いシャツの向こうに広がる空間が、突然大きく開け、僕は思わず立ち止まった。左手には壁面の半分ほどを占める大きさで、階段ほども無い段差のステージがライトアップされ、ドラムセットとキーボード、それに3本のマイクスタンドが輝き、自己主張をしている。そしてそれらを取り巻くように配置されたいくつかの円形テーブル達。さらに奇妙な空間をのこして、2重3重に取り巻かれた円形のテーブルよりも大き目の四角いテーブルとソファ。店内はざっとこんな造りになっている。
僕達が案内されたのは、中央やや奥よりの2重目のソファの席。
「みんな水割りで良いよな」
座るなりひさ兄は、ほぼ断定するような口調でそう言い放ち、僕達三人の返事も待たずに、ジャックダニエルというウィスキーをボトル1本注文していた。
未だにビールが美味しいとも思えない僕にとっては、お酒に対して何のこだわりがある訳でもない。別になんだって良かった。
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