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  • 08/20/03:34

08.20.23:27

小説~Lover Shakers~Outside Storys Vol.2 1回目

 『翼の折れてしまった鳥』
 何かの曲に出てきそうなフレーズ。
 『飛べない豚は、ただの豚』
 有名アニメの名台詞。
 『声を無くしたカナリア』
 どこか小説か演劇の題になりそうな言葉。

 その全てが、今の自分を表す言葉のようで、僕は自嘲的な笑みを浮かべ、グラスに僅かに残った水割りを飲み干した。テーブルに置いた衝撃で中の氷が僕を慰めるかのように、優しげで軽やかな音を立てる。それでも僕の心は少しも動かない。数分前に消したばかりなのに、僕は新しいマルボロに火を灯した。ため息混じりに大きく煙を吐き出してみたものの、矢張り心は晴れない。

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次回

この物語はフィクションです。
ネット小説ランキング>現代シリアス部門>「小説Lover Shakers」に投票 (月1回)

 

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08.07.23:00

小説~Lover Shakers~Outside Storys Vol.1その22

 いつの間にかスローナンバーが終わっていたのか、それとは明らかに異なる、ハイテンポでリズミカルなピアノが奏でるメロディが、トイレの中の僕の鼓膜をくすぐる。
「ひさ兄がリクエストした曲だ。”At the hop!”。邦題で”踊りに行こう”って曲なんだ」
 べーやんの目が輝いている。確かにこの曲のイントロには、それだけの力がある。いや、これまで耳にしてきた音楽の多くには、そういう力が溢れていたのだ。それを受け入れられなかったのは、僕が頑なに閉ざしてきた扉のせいに他ならない。
 その扉が大きく開かれた今、僕の五体は檻から解き放たれた野生動物のように、人の制御を離れたアンドロイドのように、自らの感じるままに、衝動に突き動かされるままに躍動する瞬間を待ち望んでいる。
 僕とべーやんはトイレの扉を勢い良く開けると、先を争うかのようにステージへと急いだ。
 そこにはすでにひさ兄とヒロ、それにLover Shakersの3人が踊っている。
 僕とべーやんもその中に加わった。
 べーやんの笑顔。
 ひさ兄の笑顔。
 喫茶店の男の笑顔。
 ヒロの笑顔。
 ツイストなんてさっぱり分からないけれど、僕は思いのままに体をひねった。ひさ兄やLover Shakersの面々はツイスト以外の動きも見せていたが、全部無視した。それは傍から見れば、”壊れた操り人形”以外の何者でもないかもしれない。でも今はそんなことはどうでもよかった。誰かから金を頂戴しているわけでは無いし、だれに迷惑をかけるわけでもない。
 音楽―
 その文字通り、音を楽しめればそれで良いのだ。
 今はただそれでいい。
 今はただそれだけで満足だった。

 いつまでもこの音楽の中で揺れていたい。
 大切な仲間と、この貴重な時間を共有していたい。 
 その思いを胸に、ぼくは今この時、この場所を全身全霊をあげて楽しんでいた。

 終電に揺られながら、僕達4人は家路をたどった。
 ひさ兄は酔いと疲労からか、隣で舟を漕いでいる。
 ヒロはコンビニで手に入れたスナック菓子を頬張りながら、メタボに磨きをかけている。
 僕とべーやんはそんなヒロに突っ込みを入れるが、もちろんヒロはお構いなしだ。
 車内では、酔いつぶれた中年や、人目を気にしないネジの外れたカップルなど、つまらない現実に溢れている。
 でも、その景色はいつもとは違ったものに、僕の目に映っていた。
 確かに現実には汚れたもの、つまらないものが溢れている。でも、それに埋もれてしまうかどうかは、自分の心の持ちよう次第なのだ。
 大袈裟かもしれないが、自分の人生を楽しめるか否かは、誰のせいでも、社会のせいでも無い。自分が楽しんでいるか否かというだけの事なのだ。何事もやってみなければ事の本質はつかめない。仕事も遊びもだ。僕はその事に、ようやく気付いたのかもしれない。
 少し輝きを取り戻した世界の中で、少しだけ前を向く事ができた僕は、この素晴らしい仲間達と共に進む、新しい夜明けを模索していた。

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<了>
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ネット小説ランキング>現代シリアス部門>「小説Lover Shakers」に投票 (月1回)

07.29.22:20

小説~Lover Shakers~Outside Storys Vol.1その21

「ちょっと…」
 べーやんが僕の肩を叩き、付いて来るよう小さく手招きした。僕は何の用かと不思議に思いながらも、べーやんの後に続いた。
 行き着いた先はトイレだった。今回は、中に誰もいない。
 それほど尿意をもよおしている訳ではなかったが、何か話があるのだろうと思い、二つ並んだ小便器に並んで立った。
「何だか、無理矢理みたいでごめんな」
 唐突にべーやんが謝った。理由はすぐに分かった。さっきのひさ兄の言葉に対してのものだ。
「いや…」
 これまでの自分の態度を考えれば、申し訳ないのはむしろこちらの方なので、返答に困った。
「本当に嫌なら、別に良いんだぜ」
 べーやんがまじまじと僕を見た。その目は澄み渡り、僕に対しての気遣いに溢れていて、さらに心が痛んだ。
 やっぱり親友だな―
 心からそう思った。なにしろ中学からの付き合いだ。そう思ったら、不思議と心が軽くなった。
 親友二人と、散々世話になってきた兄貴分との貴重な時間だと言うのに、これまで僕はいったい何をしていたのだろう。そんな事も思う。
 僕は、おそらく今日初めての心からの笑顔で、ゆっくりと首を横に振り、
「いいんだ。じつは少し前から体がウズウズしてきてたんだ」
と言って、笑顔のまま肩をすくめて見せた。
 べーやんは少し驚いた顔をしたけれど、すぐに笑顔に戻った。
「やっと、いつものレージに戻ってきたな」
 べーやんも満面の笑みになった。
「最近元気なかっただろう。ひさ兄に言ったら、俺に任せろって…。それで、こんな事になった」
 べーやんは、少し困った顔でそう告白した。
 意外だった。今日はともかく、これまではそんなつもりはこれっぽっちも無かったにもかかわらず、僕の微妙な変化に、僕よりも早くべーやんは気付いていたのだ。
 僕はあらためて、
 やっぱり親友だなと、思った。

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つづきはこちら

07.22.22:19

小説~Lover Shakers~Outside Storys Vol.1その21

「あと残すところ1ステージ半だ。レージはどうしても踊らないのか」
 ひさ兄は前を向いたまま、そう呟いた。べーやんとヒロが僕の表情を伺っている。僕は予想もしていなかった展開に、どう答えて良いか分からない始末だった。
 本当は踊りたい。でも、これまでの自分の姿勢を省みると、どうしても素直になれない。
それでも、強がりを言えないでいるのは、これ以上否定的な態度をとり続ければ、僕は一生フロアに飛び出す機会を失うような気がしたからだ。
 沈黙を続ける僕に、ひさ兄が今度は目を見て言葉を繋いだ。
「レージがそんなに音楽に対して冷たい奴だとは思えないけどな。良い音楽に出会えば、自然に体が反応する。そんな奴だと思ってた」
 心に刺さる言葉だった。そう言えば、いつから僕は音楽に対してまで、こんな姿勢をとる様になったんだろう。ここで耳にする音楽も、けして僕の嫌いな部類では無い。それなのにどうして僕は素直になれなかったんだろう。
 鬱屈した気持ちが解けて行く。そんな気持ちだった。でも、言葉にはならない。
「ここが気に入らないと言うなら仕方ない。でもそれを決めるのは、一度フロアに立ってからにしてくれ。いいよな」
 ほとんど強制と言っても良い言葉だった。でも、反発する気にはならない。なぜなら、それは僕の待ち望んでいた言葉だったからだ。笑顔ではなかったけれど、僕ははっきりと頷いて見せた。
「よし」
 そう言うとひさ兄は、グラスを大きくあおり、中身を飲み干した。

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To Be Continued
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07.15.23:17

小説~Lover Shakers~Outside Storys Vol.1その20

 客が引いたことは、僕にとっては好都合だった。
 ダンスフロアも人が疎らで、Lover Shakers(?)の3人の全身が、動きが、はっきりと視界に入るからだ。
 僕は周囲のテーブルに人がいないのを良いことに、テーブルの下で彼らのステップを真似ることに必死になっていた。今、彼らが踊っているのは、ひさ兄いわく”ボックスステップ”。
 僕は今になって、ひさ兄の話を熱心に聴いていなかった事を後悔していた。どんなに目を凝らそうと、どんなに頭を整理しようとしてみても、僕の足は彼らの動きをトレースできずに、果てしない知恵の輪のように絡まっていたからだ。
 何の成果も上げられないままステージの前半最後の曲が終わろうとしていた頃、Lover Shakersの3人が体を反転させ、顔がこちらを向いた。僕は目を伏せる暇もなく、彼らの視線と交錯した。その瞬間、”喫茶店の男”が僕に対して微笑んだように見えた。
 見られたのだろうか―
 僕の頭の中は、テーブルの下でこっそりとステップを踏んでいたのを見られたのでは無いかと言う一事で一杯になり、まるで悪戯を見咎められた少年のように、頭を垂れるしかなかった。  

 スローナンバーになると寄せた波が返すように、誰もがテーブルへと戻っていった。このステージでは、だれもチークを踊る人間はいないようだ。
 ひさ兄が額の汗を拭いながら、僕の隣に腰掛けグラスをあおった。表情はこれまでとは打って変わって、どこか憮然としている。
 何かあったのだろうか―僕はそんなことを考えながらグラスを傾け、横目でひさ兄を伺っていた。

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