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  • 11/01/08:26

12.31.21:00

小説~Lover Shakers~Outside Storys Vol.2 81回目 

 

 次のステージが始まろうとしていた。
 3人は待ってましたとばかりに、すでにタバコの火を消して、いつでも飛び出せる体勢に入っている。僕もほとんど無意識のうちに、まだ半ばほどしか吸っていないマルボロを灰皿に押し付け、グラスを傾けて少しだけ喉を潤していた。
 別に僕は踊ってみようかと思っていた訳ではない。前のステージでも、踊りたくてウズウズしていたなんてことも無かったし、踊れるかもしれないとさえ、思ってもいなかったのだ。それでも不思議な事に、ステージを前に体が反応していた。
 ♪悲しき街角♪のメロディーに弾かれるようにして3人がそろってダンスフロアに飛び出したのとほぼ同時に、僕はすっと立ち上がり、まるで吸い寄せられるようにして、1歩を踏み出していた。
 心の中では、「大丈夫なのか」と自問自答しながらも、それさえも意に介さずまるで別の意思が働いているかのように、歩みは止まらなかった。だが不思議な事に、僕をあれだけ苦しめてきた罵詈雑言や嘲笑と言ったものは一切聞こえてこない。病的に鼓動が速度を上げる事も無い。それらを不思議に思いながらも、さも当然であると言いたげな自分もまた存在している。
 三人の左隣に陣取り、体に染み付いているスッテップを自然に踏みしめる。そんな僕と目が合っても、3人はそろって驚く様子も見せずに、ただ笑顔で同じステップを踏みしめている。
 不意に脇腹を小突かれ、視線を移せば、そこにはRichardとMickyの姿。
「なかなかやるじゃねぇか」
 Richardがステージの音に負けんばかりの大声を張り上げ、僕はそれに笑顔で答えた。


                    <了>
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12.31.18:00

小説~Lover Shakers~Outside Storys Vol.2 80回目 

 ステージが終わった後、カウンターの中に彼らの姿を見つけていた。そう。Lover Shakersの2人だ。彼らが僕に気付いているかどうかは分からなかったが、こうしてここにいる以上、彼らもまた、僕にとって越えなければならない壁の一つであることは確かだった。
 僕は3人に断りを入れて席を立った。そのまま真っ直ぐにカウンターを目指した。不思議と何の気負いも、不安も感じられない。顔見知りに挨拶を入れに行くような心持だった。
 僕が挨拶と共にお詫びを述べた後、最初に口を開いたのはMickyだった。
「おかえり。思ったより早かったね」
 僕にとってこれ以上は無い言葉だった。恐らく彼の胸の傷は癒えていないだろうに、何の蟠りも感じさせない、爪の先程の皮肉もこめられていない言葉だった。
「あの3人は…」
 彼の問いかけに、僕は一も二も無く答えた。躊躇いも、恥じらいも感じることなく。
「親友です」
「そうか。良かったね」
 どうやらそれだけで、彼には通じたようだった。あの3人が、僕が憎悪を抱いていた3人だということを。だが、それ以上彼は詮索の手を伸ばそうとしない。それだけでも、十分彼の人柄がうかがえた。今更ながら、1週間前彼に取った行動が悔やまれ、僕は再び頭を下げていた。
「いいさ。今君が楽しんでるのならそれで良い」
 顔を上げると、これまでそっぽを向いていたRichardが僕の目を見ていた。
「俺も同感だ。そう言えば、お前、Jerryが俺達の事を裏切ったと言ってたが、そりゃ違うぜ」
 彼の言葉の行き着く先が読めずに返事に窮している僕だったが、そんな事にはお構いなしで、彼は続けた。
「あいつは昔、入店禁止になってな。それ以来、住所不定の小説家になっちまったのさ。でも、あいつは行く先々の町で踊ってる。もちろんこの街に帰ってきた時もな」
「入店禁止?どうしてですか?」
 驚く僕に、Mickyが答えた。
「どっかの馬鹿が、奴のブルースェードシューズを踏んだ。奴はそいつを殴っちまった」
「え?それだけで?」
 あまりに軽い理由に驚き、上ずった声を上げた僕をRichardが笑った。
「ば~か。比喩だよ」

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12.31.15:00

小説~Lover Shakers~Outside Storys Vol.2 79回目 

 ダイアナでの僕達は、まるで10年前にタイムスリップしたような気分だった。
 もちろん皆年を取っているし、会話の内容も10年前とは全く違うのだが、4人そろって同じ時を過ごしていると言うだけで、そう言う気分になれた。別に昔を懐かしむような年では無いが、別たれていた時の長さが、否応無くそういう気分にさせるのだ。
 ステージがはじまると、3人は昔と同じようにダンスフロアに飛び出してゆく。「悪いな」や「どうする?」と言った言葉や、気を使う素振りも無く、さもそれが当然の行為であるかのように立ち上がる。
 だが、それが彼らの優しさであると、僕には分かる。逆に気を使われて踊らなかったり、謝られたり、社交辞令のように誘われる方が、僕にとって辛い事だと、彼等は良く知っているのだ。それに、けして過大評価ではなく、今夜の僕は、踊れなくても存分にダイアナを楽しんでいる。それは3人がいるからと言う事だけでは、どうやらなさそうだった。なにか背負っていたものを降ろしたような、そんな気分だ。
 遅ればせながら、僕は親友と言う言葉の本当の意味を、親友とは如何なるものかと言う定義を知ったような気がする。
 親友とは、共に時間を過ごすだけの者をさすのではない。
 親友とは、余計な言葉を交わすだけの者では無い。
 親友とは、如何にお互いの事を正しく理解しているかと言う事であり、過ごした時間や、交わした言葉の数で測れるものでは無いのだ。
 またこの3人と疎遠になる時が来るかもしれない。だが、それでも彼らのことを親友だと、今の僕なら信じることが出来るような気がした。

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12.31.12:00

小説~Lover Shakers~Outside Storys Vol.2 78回目 


 僕は路上に立ち尽くしたまま、訥々とこれまでの事を語った。
 誹謗嘲笑によって、踊れなくなってしまった事。
 それでも、ダイアナに通い続けた事。
 偶然知り合ったLover Shakersの二人と話すうちに、その真の原因が3人が僕から離れていってしまった事であり、それを僕が恨んでいると言う事実に気が付いた事。
 3人はただ無言のまま、何の邪魔もせずに、黙って僕の話を聞いてくれた。雑踏のど真ん中で、はた迷惑になる事を承知していながらも、そうしてくれた。僕はそれだけで、もう十分泣けそうになっていた。
 如何なる結果をも受け入れる覚悟で、目を逸らさずに3人を見ていたが、彼らの目には相変わらず、蔑視も憐憫も、憎悪さえも浮かんでこない。愛想を尽かしたといった感情もまた皆無だった。
「それがどうした」
 そう言い放つ谷川の顔は真剣そのものだった。だが、僕は不思議と責められているようには感じない。僕はどうにも彼の真意を測りかねて、彼の双眸を覗き込んでいた。
「生真面目なお前らしいな。物事の理由を突き詰めて、答えを出さなきゃ気が済まない。その答えが間違っていても、導き出した答えがそれしかないと、無理矢理にでもそう信じてしまう。だってそうだろ?本当にお前が俺達を恨んでたんならここには来ないだろうし、そんな事を話す必要なんて無い」
 谷川の顔は話すうちに次第に和らいでゆく。彼の言葉に河合も言葉を繋ぐ。
「そうそう。人間弱気になれば、悪い方に考えが行くんだぜ」
「まあ、お前が踊れないってのは残念だけどな」
 最後に、三好がおどけた調子で締めた。
 鼻の奥に否応無く刺激が襲い、目頭が熱くなる。僕はほとんど言葉にならない「ありがとう」をただ繰返すしかなかった。

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12.31.02:07

小説~Lover Shakers~Outside Storys Vol.2 77回目 

 だがあえて僕はその流れに一石を投じる。その結果、再び僕と三人を別つ事となるのか、それとも昔と寸分違わぬ友情を取り戻し、何のわだかまりも無く、毛ほどの疑いも無く、再び未来永劫続くとしか思えない、まさしく『親友』と呼べる存在となり得るのか。それは今の僕には分かるはずもないし、大した問題ではない。
 今僕の中では、1週間前に耳にしたばかりのRichardの言葉が響いていた。思い出すのもはばかられるような彼の言葉が、納得など出来るはずも無い、抱きすべきものと信じていた言葉が、今や揺るがす事の出来ない信念とも言える重さを帯びている。
 肝心なのは、楽しんでるかどうかと言う事――
 このまま真実を押し隠し、表面上はこれまでと変わらない友情を表現しながら時間をやり過ごす事もできる。でも、僕はやっぱり踊れないだろうし、本心から楽しむなんて出来やしない。昔の僕ならば、いや1週間前までの僕ならば、きっとそうしていた事だろう。何もかもを諦め、心の奥底の引き出しにしまいこんで目を背け、ただ刻々と流れてゆく時間に全てを委ねて。
 だが、それを良しとしない僕がいる。例え3人に僕と言う人間がどう思われようと、その先に待っているのが真の破滅であろうと、今この『真実』と言う名の壁を越えない限り、真の楽しみにたどり着けないのであれば、避けることなど出来るはずがないと息巻いている僕がいる。

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