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  • 05/14/22:42

12.30.22:55

小説~Lover Shakers~Outside Storys Vol.2 76 回目 

 谷川の言葉に二の句が次げなくなりそうになるのを必死でこらえ、その瞬間には僕は全てを洗いざらい曝け出す決意を固め、それで3人に愛想をつかされるのなら、それはそれで止む終えない事だと言う腹を括り、憎悪の念を抱いただけでは飽き足らず、その上一生彼らを欺き続け現状を維持する事の無意味さを悟るに至った。
「みんなに謝らなければならないことがある」
 僕の言葉に、三人は顔を見合わせ、心底見当も付かないと言う顔で僕を見た。

 僕達は川の流れの中にいた。
 それは第三者の俯瞰的な視覚から見れば、行き交う人々の流れであり、走り去る1台1台の車でしかない。だが、今の僕にとってはそれらはまさしく飛沫を巻き上げることなく粛々と流れる川であり、その傍らで物言わずに佇む川原の石ころであり、風にたなびく葦の1本1本でしかない。時折流れに足を取られそうになるとは言え、別段気に留めるほどのものでは無い。
 また、僕の精神的な視点から見れば、その川の流れとはすなわち歳月だ。無常にただ淡々と、何の配慮のかけらも無く、その流れを速めることも緩める事もせずに、ただ流れ続ける時の流れだ。その時の流れはまた、僕と眼前の三人の永久不変と思えた絆を、いとも容易く断ち切り、戯れとも言える気紛れさで、再びめぐり合うよう仕向けた、抗う事さえ敵わないと思わずにはいられない大河。

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12.29.23:56

小説~Lover Shakers~Outside Storys Vol.2 75回目 

 それから数分も経たないうちに、谷川と三好も到着し、誰もが異口同音に僕の体調を心配している。だが、その優しい言葉とは対照的に、僕の中では彼らを裏切り者として憎悪の対象としていた事実が重く圧し掛かり、精神に亀裂が走り、胸は僅かに生存が許される程度にまで圧迫され、早くもダイアナを目指す3人に付いて行くのに足が縺れそうになり、視界がぼやけ、かつ狭まり、耳に入る話し声や周囲の物音はごちゃ混ぜでもはや雑音でしかない。
 それほど距離が離れている訳でもないのに、三人の後姿がやけに遠く感じられ、またもや一人取り残されるのでは無いかと言う不安がさらに追い討ちをかける。本当に3人が遠退いているのか、それとも僕の視界、いや意識が薄れ、そう見えているだけなのか。考えてみたところで分かるはずも無いが、それ以上に僕の思考は、『もう一人になりたくない』という一点に凝縮され、意志の力が働くより前に、本能の力が「待ってくれ」と叫ばせていた。
 自分の声の大きさに、自分自身が衝撃を受け、その為に意識や視界と言ったものが一気に本来の力を取り戻すと、あれほど遠くに見えた3人はほとんど目と鼻の先にあり、一様に見開いた目で僕を見ていたが、蔑視でも憐憫でもない、しっかりとした温度のこもった目に変わっていった。
「なんだよ。やっぱり具合悪いのか?」

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12.28.23:19

小説~Lover Shakers~Outside Storys Vol.2 74回目 

 周囲のいたる所から、僕に対する明らかに蔑視と取れる視線を無数に感じる。ダイアナの店内ならともかく、こんな無関係な場所でそんな視線を受ける謂れは無いはずだが、それでも僕の心の中では、不安と言う名の風船が激しい勢いでもって膨張を始め、それは的確に僕の肺を圧迫しているかのような息苦しさを覚え、自分の首を締めることになりかねないにもかかわらず、自らの粗探しと分かっていながらも、蔑まれる理由をあれこれと探し回らずにはいられず、顔面はまるで暖房の効きすぎた部屋にいるかのように火照っていたかと思うと、背筋に冷たいものを感じて見る見る青ざめていった。
 大声で名前を呼ばれ、脅えた目であることは承知しつつもどうすることも出来ず、声の主を求めて首を、次いで体ごと動かした。
「どうしたんだ?さっきから呼んでたんだぜ?」
 声の主は最後にダイアナを離れた河合。怪訝な顔で僕の顔と言うよりも目を覗き込んでいる。
「大丈夫か?顔色悪いぞ?」
 僕は大丈夫だと答えて、精一杯の笑みを見せたつもりだったが、はたしてそれが笑顔と呼べるものであったかどうかは自分にさえ分からなかった。もはや営業スマイルさえ使いこなせない現状に、僕は内心愕然としていた。河合は「ホントかよ」と半信半疑なまま、「祝いの夜だからって、あんまり無理するなよ」と付け加えた。

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12.26.22:36

小説~Lover Shakers~Outside Storys Vol.2 73回目 

 週末はあっという間にやってきてしまった。昨夜の谷川からの電話によると、当時ダイアナに通っていた他の二人も、谷川の帰郷を聞いて駆けつけるそうだ。
 Lover Shakersの二人に「二度と来ない」と言い放ちながら、翌週にはもう顔を出すと言う恥知らずな行為に嫌気がさし、何度か谷川に電話をしようとダイヤルしかけたものの、結局は通話ボタンを押すところまではたどり着けず、谷川が指定した待ち合わせ場所である駅前に立っている僕は、なぜか異様なまでに周囲の目を気にしていた。
 心のわだかまりはそれだけでは無い。
 彼らの知るところでは無いとは言え、親友3人に対して僕が憎悪を覚えていたと言う認識は、僕の脳裏に深々と刻み付けられている。その3人と、自分の心を押し隠したまま、良心の呵責に押し潰されそうになりながら、それでもなお以前と同じように笑顔で同じ時を過ごせるのだろうか。
 それでも、そんな残酷な事実を3人に伝え、許しを請える程、僕の心は強靭に出来ていない。その証拠に、谷川の帰郷が、僕がその事実に気付く前だったならどれほど良かった事かと、詮無い思考が頭を駆け巡り、そう仕向けたであろう信じてもいない神や、運命といったものに対して悪態をつくのが精一杯と言う体たらくだった。

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12.25.23:43

小説~Lover Shakers~Outside Storys Vol.2 72回目 

 ♪カラーに口紅♪は僕の親友専用の着信音、つまりはダイアナに共に通っていた3人だけのものなのだが、最近では滅多に鳴らない為に、殆ど忘れかけていたのだ。
 僕の心は自分でも不思議なくらい逸り、殆ど転がり込むようにして部屋に戻り、携帯のサブウィンドウを覗き込むと、そこには”谷川”の文字。谷川は僕達の中で、一番最初にダイアナから遠ざかった、就職で関東へと旅立った男だ。最後に会ったのは2年程前。彼の結婚式以来で、僕にとって最も意外な相手だった。
 電話口の向こうの谷川の声は、上気している様が実際に見えそうな程、興奮して上ずっており、かつ早口で、ありきたりな『元気にしていたか』といった、お決まり文句を処理した後、回りくどい事が嫌いな彼らしい唐突さでもって、早速本題を口にした。
「俺来週から大阪勤務になったんだ。で、次の週末、久しぶりにダイアナに行こうと思って。どうせお前まだ行ってるんだろ?一緒に行こうぜ」
 『どうせ』と『まだ』と言う言葉が妙に引っかかったが、彼の剣幕に負けて、あるいは心の底で待ち望んでいた瞬間が訪れたとでもいうように、僕は一も二も無く了承していた。
「じゃあ、また連絡するよ」
 言いたい事を言い終えた谷川は、これまた唐突に電話を切り、おかげで僕はしばらくの間受話器から流れるプープーという音を呆然と聞いていたのだった。

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