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  • 01/24/18:02

08.27.22:48

小説~Lover Shakers~Outside Storys Vol.2 8回目

 立っているのも辛くなり、頼りない足取りで踵を返そうとしたその時、自分の右足に左足がからまり、僕は無様に倒れた。
 だから、嫌だって言うのに―
 心の中でRichardに対して悪態をついたとき、僕の耳の中で微かに嘲笑が響いた。這いつくばったまま視線を上げると、すぐ脇のテーブルに腰掛けている女性が慌てて顔を背けたように見えた。
 僕の脳裏に直接響くように、次々と嘲笑がこだまする。
 蔑みに満ちた、罵詈雑言。
 いかなる者をも凍てつかせる、蔑視。
 絶える事の無い、哄笑。
 その全てが僕に覆いかぶさってくる。
 押し潰されそうな僕の肩を、誰かが優しく叩く。視線を向けると、そこにはRichardがいた。
「大丈夫か?」
 彼はそう言ったのかもしれない。でも、今の僕にはよく聞き取る事ができなかった。それにもう、フロアには1秒たりとも居たくなかった。僕は彼の手を振り払い、急場の避難場所としてトイレを目指した。

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08.26.23:10

小説~Lover Shakers~Outside Storys Vol.2 7回目

 目の前にダンスフロアが、いや、正確には、そこで踊る人達の背中がぐんぐん近づいてくる。Richardに引き摺り下ろされた当初は心の奥底で、再びダンスフロアに何事も無く立てるかもしれないという、甘い期待を抱いていたが、すぐにそれが大きな間違いであると気付いた。
 ダンスフロアに一歩近づくたびに、僕の鼓動は加速度的に早まり、心なしか音まで大きくなっているような気さえする。膝はもはや僕の意思を離れ、彼が背中を押していなければ、その場に崩れ落ちそうなほどか弱い。
「まって、ちょっとまって」
 僕は力なくそう叫ぶのだが、Richardは全く意に介さずと言った感じで、ぐんぐん押してくる。
「いいから、いいから」
 なんて奴だ。僕が心の中で悪態をついた時には、すでにフロアに足を踏み入れていた。隣では能天気にRichardが踊っている。その姿が時折溶けた飴細工のようにぐにゃりと曲がって見える。僕は絶望とはこう言うものなんだろうなと、まるで他人事のように考えていた。

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08.25.22:58

小説~Lover Shakers~Outside Storys Vol.2 6回目

 本日3回目のステージは、ジャンニ・モランディの♪サンライト・ツイスト♪。サックスの小気味良いメロディではじまる、ツイストナンバーだ。
 Richardは勢い良く椅子から滑り降りると、怪訝そうに僕を見た。
「行かないのか?」
 彼の声は、聞き取れるか聞き取れないかと言うほどの大きさだったので、ぼくは聞こえない振りをして、ステージの方を向いていた。
「踊らないのかぁっ」
 今度の声は馬鹿でかかく、思わず僕は目を剥いて彼を見た。おそらく僕の体は、驚きのあまり、椅子から10センチは浮いていたはずだ。とても聞こえない振りは出来ない。
「いえ…」
 やや気圧された僕は、消え入りそうな声でそう答え、あわせて首を横に振った。
「馬鹿言うな」
 Richardはそう言うが早いか、僕の腕を掴むと、椅子からほとんど引き摺り下ろし、よろける僕の背中を押して、ダンスフロアへと押しやった。
「ここへ来て、踊らない奴があるか」
 僕の背後で、Richardが叫ぶ。
 じゃあ、聞くなよっ―
 僕は思わず、心の中で突っ込んでいた。

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08.24.22:56

小説~Lover Shakers~Outside Storys Vol.2 5回目

 男は自分の名前をRichardと言った。もちろんどう見ても日本人だ。彼に言わせれば、この店ではそれで通っているらしい。どうやら相当な常連であり、一風変わった男である事は間違いない。そう言われてみれば、見かけたことがある顔のようにも見える。
 僕も礼儀上名を名乗り、とりとめの無い世間話が始まり、いつの間にか今日の3rdステージが始まろうとしていた。
 いつも通り、バンドマンが一人また一人とステージに上がり、簡単な音合わせを始めている。客席からは、これから始まるステージを待ち望んでいたとばかりに、彼らに視線を注いでいる。
 数ヶ月前の僕も、彼らのように今や遅しと目を輝かせて、ステージを待ち望んでいたのだろう。だが、ステージに対する今のときめきは、あの頃の半分にも満たないのかもしれない。それでもこうしてこの場所にいる僕とは、いったい何者なのだろうか。

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08.23.23:34

小説~Lover Shakers~Outside Storys Vol.2 4回目

 それから男は一方的に、自分の話を始めた。
 今日は会社の若い者3人に混じって合コンに行っていたらしい。今回は珍しくいい娘ばかりが4人来ていて、トイレでの密談の結果、それぞれの狙いの女の子もバラバラという最高のシュチュエーションだった。しかし、3人ともそれぞれの相手と意気投合したものの、自分だけが相手に避けられ、仕方なく先に抜けてきたのだと言う。
「年を重ねた良さってのも有るよなぁ。それが分かっちゃいねぇ…」
 男は最後にそう付け加えた。
 どうやら僕も誰かに振られて沈んでいるのだと思われているらしい。だが、自分の身の上を説明するのも面倒なので、否定するのはやめにした。
「で、あんたは誰に振られたんだ?」
 男の問いにも、苦笑いを返すしかなかった。

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