03.10.19:30
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07.18.00:45
小説 ~Lover Shakers~その11
今回のステージは、客数も減ったこともあって、スローナンバーである”この世の果てまで”からスタートし、ベン・E・キングの”スタンド・バイ・ミー”、カスケーズの”悲しき雨音”と、穏やかな曲調のナンバーが、立て続けに続いた。僕達は立ち上がることなく、おとなしく席に着き、この優しげなメロディー達に心を泳がせて、バーボンを飲み、タバコに火をつけていた。
「リクエストが通って無いのか」
曲の合間に、Richardが苛立たしげに、そう言った。僕は、後半にアップテンポのナンバーを集めているのだろうと、希望的観測を示してRichardの気を鎮め、Mickyは、別にかからなければ、それはそれで良いじゃないかと、消極的な意見を言って、Richardのヒンシュクを買っていた。
続いてお決まりのスローナンバー。曲はプラターズの”オンリー・ユー”。
この時間になると、チークを踊る人も殆どいない。マジックトーンズの面々も、カップルであるにもかかわらず踊ってはいない。殆ど泥酔状態の熟年カップルが、千鳥足で、それでいて笑顔を絶やさずに、仲良くチークを踊っているのみである。
曲が終わると、まばらな拍手と共にライトが輝きを増し、男女ボーカルのMCがはじまった。声はまだまだ元気だが、この選曲を考えれば、客数が減ったこともあってか、あまりやる気は感じられない。
女性ボーカルの元気な声が、このステージもラスト3曲であることを告げた。曲数まで2曲も削っている。完全な手抜きもいいところだ。せっかくの楽しい夜も、終盤でこれでは台無しである。僕は秘かに怒りを燃やしていた。
だが、女性ボーカルの次の言葉が僕の怒りを雲散霧消させた。残り3曲の1曲目はLover Shakersさんからリクエストを頂いた、Thinkであると、高らかに宣言されたのだ。僕らは一も二も無く立ち上がった。
「Lover Shakersさんはどちらですか?」
おまけに僕らのシナリオどおり、話題にまで上らそうとしてくれている。僕らは、まるで授業参観の小学生のように、高らかに手を上げて見せた。
「ダンスチームのLover Shakersさんでーす。はい拍手」
バンドの演奏付きで紹介された僕らは、とっさに手を広げてポーズを作って見せた。僕らの新しい門出だ。若干の羞恥心と、それを上回る恍惚感で、僕らのテンションはいやおう無く上がった。ちらりとマジックトーンズの席に目をやると、ハコフグが殆ど睨みつけるような視線を、僕達に注いでいる。僕は相手になってやるといわんばかりに、あごを上げて、かすかな笑みを浮かべて見せてやった。
「では、Lover Shakersの皆さんと盛り上がっていきましょう」
女性ボーカルのこの言葉を合図に、演奏が始まる。アレサ・フランクリン程ではないが、パンチの効いた歌声で曲が始まる。僕らは映画ブルースブラザーズのジェイクとエルウッドのように、少しおどけた調子でステップを踏んだ。
客は少ないながらも、僕達のほかにも二,三組、五,六人がフロアで踊っている。僕らのステップを見ながら、真似をしようとする人達。関係なく楽しげに踊る人達。どれも笑顔に満ちていて、僕らも目が合えば、笑顔を返した。
驕りかもしれないが、この時は確かに僕らがこのフロアの核となっていた。僕らがこのステージを盛り上げているのだという気さえする。人数こそ少ないが、僕らにとって、このステージが、今日一番のステージになった。
その反面、僕らが気に入らないのか、このステージでは、最後までマジックトーンズが踊ることは無かったのだった。
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*この小説はフィクションです。登場する人物・団体名は架空のものです。
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「リクエストが通って無いのか」
曲の合間に、Richardが苛立たしげに、そう言った。僕は、後半にアップテンポのナンバーを集めているのだろうと、希望的観測を示してRichardの気を鎮め、Mickyは、別にかからなければ、それはそれで良いじゃないかと、消極的な意見を言って、Richardのヒンシュクを買っていた。
続いてお決まりのスローナンバー。曲はプラターズの”オンリー・ユー”。
この時間になると、チークを踊る人も殆どいない。マジックトーンズの面々も、カップルであるにもかかわらず踊ってはいない。殆ど泥酔状態の熟年カップルが、千鳥足で、それでいて笑顔を絶やさずに、仲良くチークを踊っているのみである。
曲が終わると、まばらな拍手と共にライトが輝きを増し、男女ボーカルのMCがはじまった。声はまだまだ元気だが、この選曲を考えれば、客数が減ったこともあってか、あまりやる気は感じられない。
女性ボーカルの元気な声が、このステージもラスト3曲であることを告げた。曲数まで2曲も削っている。完全な手抜きもいいところだ。せっかくの楽しい夜も、終盤でこれでは台無しである。僕は秘かに怒りを燃やしていた。
だが、女性ボーカルの次の言葉が僕の怒りを雲散霧消させた。残り3曲の1曲目はLover Shakersさんからリクエストを頂いた、Thinkであると、高らかに宣言されたのだ。僕らは一も二も無く立ち上がった。
「Lover Shakersさんはどちらですか?」
おまけに僕らのシナリオどおり、話題にまで上らそうとしてくれている。僕らは、まるで授業参観の小学生のように、高らかに手を上げて見せた。
「ダンスチームのLover Shakersさんでーす。はい拍手」
バンドの演奏付きで紹介された僕らは、とっさに手を広げてポーズを作って見せた。僕らの新しい門出だ。若干の羞恥心と、それを上回る恍惚感で、僕らのテンションはいやおう無く上がった。ちらりとマジックトーンズの席に目をやると、ハコフグが殆ど睨みつけるような視線を、僕達に注いでいる。僕は相手になってやるといわんばかりに、あごを上げて、かすかな笑みを浮かべて見せてやった。
「では、Lover Shakersの皆さんと盛り上がっていきましょう」
女性ボーカルのこの言葉を合図に、演奏が始まる。アレサ・フランクリン程ではないが、パンチの効いた歌声で曲が始まる。僕らは映画ブルースブラザーズのジェイクとエルウッドのように、少しおどけた調子でステップを踏んだ。
客は少ないながらも、僕達のほかにも二,三組、五,六人がフロアで踊っている。僕らのステップを見ながら、真似をしようとする人達。関係なく楽しげに踊る人達。どれも笑顔に満ちていて、僕らも目が合えば、笑顔を返した。
驕りかもしれないが、この時は確かに僕らがこのフロアの核となっていた。僕らがこのステージを盛り上げているのだという気さえする。人数こそ少ないが、僕らにとって、このステージが、今日一番のステージになった。
その反面、僕らが気に入らないのか、このステージでは、最後までマジックトーンズが踊ることは無かったのだった。
*この小説はフィクションです。登場する人物・団体名は架空のものです。
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