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  • 05/16/02:09

07.19.23:39

小説 ~Lover Shakers~その12

 心地よい夜風に吹かれていた。街は既に眠りについている。殆どのネオンサインや、看板の明かりも灯を落とし、街灯だけが、通る人も車も僅かな今でも、夜道を優しく照らしている。空を見上げれば、月明かりと街灯に存在を薄められた星達が、まばらに瞬いている。
 僕は、夜の物静かで、それでいてどこかピンと張り詰めた空気が好きだ。誰もいない通りに立つと、目の前に広がるこの世界の、王にでもなったような気分になる。僕を阻む者も、蔑む者も、叱り付ける者も、虐げる者もいない。この瞬間、確かに僕は自由なのだ。そう感じられる夜が好きだ。
 そんな中でも、今夜はどこか特別だった。実に良い夜だ。これまで生きてきた二十一年の歳月の中で、最高の夜かもしれない。思わず手を広げて、この世界中の全てを抱きしめたい気分だ。一人だったら、間違いなく僕はそうしただろう。
 今日の最終ステージも、楽しい気分のまま終わりを迎えた。僕らがチーム名を公表したステージで、僕らを睨みつけていたマジックトーンズの面々は、最終ステージを待たずに、早々に引き上げていった。彼らは帰り際、これまで以上にあからさまな敵対心を燃やした目を僕達に向けながら去っていった。少し調子に乗りすぎたのかもしれない。店を出たとたんに、待ち伏せに合い、喧嘩になるのではないか。ふとそう思った。そんな事になれば、せっかくの楽しい夜が、全て台無しである。僕は微かに彼らの報復を恐れていた。
 最後まで残っていたのは、僕らと僅か二組五名だけだった。それでも十分楽しかったのは、その全員がフロアに飛び出して、最後まで踊ったからであり、その顔は一点の曇りの無い笑顔で満たされていたからだろう。店を出るときには、あての無い再開の約束まで交わして、店を出た。携帯電話など無かった時代だ。メールアドレスの交換など、存在しない。
 Lover Shakersの門出としては上々の滑り出しだ。こんなことなら、もっと早くに公表するべきだったと、Richardが興奮冷めやらぬといった顔で言っている。それがたとえ、その名を耳にした人達にとって、この夜の終わりと共に消え去ってしまう記憶であったとしても、僕達は満足だった。
 心の片隅で心配していた、マジックトーンズの待ち伏せというものは杞憂に終わった。考えてみれば、彼らが帰ってからもう一時間半近くが経過している。それに、この店の出入り口を視界に入れられる場所に、開いている深夜喫茶などは無い。外で待ち伏せの為に一時間半も待っていられるわけがなかった。

 いつの間にやら駐車場に着いた。点在する街灯がぼんやりとした明かりで照らし出される中、停まっている車は、僕のワーゲンと、Mickyのヒルマンミンクス、Richardの古いクラウンのステーションワゴンだけだった。止めた場所がバラバラの為、点在していたのを、僕達は慎重に一ケ所に集めた。そして、僕のワーゲンに三人で乗り込んで、寝転がった。
 僕のワーゲンは、キャンパー仕様になっている。シートを広げれば、楽にとは言えないが、大人四人までが寝ることが出来る。ルーバー式の窓を開け、備え付けの蚊取り線香を炊けば、夏場でも何とかなる。
 興奮冷めやらぬ僕は、しばらく天井を見詰めながら、起きていた。二人も同じらしく、顔を掻いてみたり、もぞもぞと体を動かしていて、眠っている様子は無い。
「Jerry。まだ、忘れられないのか」
唐突にMIckyが聞いてきた。もちろん、僕の最後の失恋のことを言っているのだろう。もしかすると、あのスローナンバーの時に、ぼくが物憂げな顔をしていたのに気付いていたのかもしれない。
 僕は、「ああ」と、軽く返事をした。
「もう、どれくらい経つ?」
Richardが重ねて問いかけてくる。僕を心配してくれているのもあるが、基本的に、Richardはこういう話題が好きなのだ。いや、Richardだけでなく、男同士で顔をそろえると、決まって出る話題なのかもしれない。
「もう、いいじゃないか。しみったれた話じゃ、良い夜が台無しだ」
僕は、この話題を遮った。実際、今は思い出したくも、話したくも無かった。今夜がHAPPYに終わってゆく。それだけで満足だった。
「それもそうだな」
 Mickyのこの言葉を最後に、僕達はやがて眠りに落ちて行った。

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*この小説はフィクションです。登場する人物・団体名は架空のものです。

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