04.28.11:45
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07.08.00:49
小説 ~Lover Shakers~その4
パーカッションの軽快なリズムが、流れ始め、続いてエレキギターがメロディーを奏で始める。今日最初の曲はリック・ネルソンの”ハロー・メリー・ルー”。僕のお望みどおりのミディアムテンポのポップスナンバーだ。
「よし」と、心の中でガッツポーズを作った時には、体の方はもう立ち上がっていた。MickyとRichardも既に立ち上がっている。周囲のテーブル、さらにはカウンター席からも、どうやら同じようにウズウズしていた連中が、ダンスフロアになだれ込んでくる。フロアは人で溢れ返り、入れない客が、通路でステップを踏んでいる。
この曲の最初は、ポピュラーなボックスステップだ。ボックスステップとは、まず1で右足を前に踏み出し、2で左足を右足に交差させ、3で右足を、4で左足を元にもどす。この繰り返しだ。この店に最初に来た夜は、この簡単なステップを踏むことさえ、思うように行かなかったものだ。
踊りながら周囲に目をやると、席についていたときには暗く、遠目であった為に気付かなかった常連客たちの顔が見える。僕達の左側、4人でステップをあわせ、開襟シャツとビンテージ物と思われるスラックスを身に纏い、きっちりリーゼントを極めているのが、古株のローラーチームである、マジックトーンズだ。年はおそらく僕達よりも4.5歳上だろうか。僕らが秘かに対抗意識を燃やしているチームでもある。どうやら、向こうも僕達のせいでフロアの真ん中が取れなかったことが悔しいのか、時折目が合う。右側には、いつも一人で来て女性客を物色している、通称(僕達だけだが…以下同じ)エロ親父の姿も見える。その斜め後方には、身なりはぜんぜん普通のかっこで、それでもきっちりとステップを踏む、通称メガネコンビも来ている。この二人も、その風貌からは想像もできないが、基本的にはナンパが目当てのようだ。まともにステップを踏んでいるのは、見える範囲ではあるがそのぐらいで、あとは思い思いにステップを踏んだり、ジルバもどきのようなダンスを熟年カップルが踊っている。
ステージは通常4曲ほどダンスナンバーが続いた後、2曲スローナンバーが入り、その後再び4曲ほどダンスナンバーが続くというパターンだ。今回も、”ハロー・メリー・ルー”に続いて、エディ・ホッジスの”恋の売り込み”、ベンチャーズの”パイプライン”と続いて、スローナンバーへと移った。曲はプラターズの”煙が目にしみる”。
僕達は再び席に着いた。僕らにとって、スローナンバーはインターバルのようなものだ。もちろんチークを誘われるような事態が起これば、相手がおばさんであれ付き合うが、自分から誘うようなまねはしない。どうも、そういうのは苦手だ。
目を閉じて、プラターズの甘いハーモニーに耳を傾けていると、Mickyの声。
「マジックトーンズのやつら、ずっとこっちを見ていたのに気付いたか」
「おう。見てた見てた。癪に障る…」
受けたのはRichardだ。この3人の中で、一番気が短い。確かにあの4人は悪意のある目でこちらを見ていた。どうも新参者に近い僕らが、フロアの真ん中に陣取っているのが気に入らないらしい。だが、こちらから文句を言うのは、勘弁願いたい。喧嘩になって、店を追い出されたら、楽しい夜が台無しだ。最悪の場合、入店禁止になる事だってある。聞いた話では、通うようになった頃に良く見かけたが、ここ最近見かけない、ちょび髭の、通称まろは、喧嘩が原因で入店禁止になったらしい。そんなことは御免だった。それに、高校生でもあるまいし、目が合っただけで喧嘩を売るというのか。馬鹿馬鹿しい事この上ない。僕は目を閉じたまま、二人の会話を聞き流した。
二人がなんだかんだと言っているうちに、曲が終わった。女性ボーカルのMCの後、再び曲に移った。2曲目のスローナンバーはヘレン・シャピロの”悲しき片思い”。僕は吸い始めたころから愛煙しているPALL MALLにジッポーの火を近づけた。
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*この小説はフィクションです。登場する人物・団体名は架空のものです。
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この曲の最初は、ポピュラーなボックスステップだ。ボックスステップとは、まず1で右足を前に踏み出し、2で左足を右足に交差させ、3で右足を、4で左足を元にもどす。この繰り返しだ。この店に最初に来た夜は、この簡単なステップを踏むことさえ、思うように行かなかったものだ。
踊りながら周囲に目をやると、席についていたときには暗く、遠目であった為に気付かなかった常連客たちの顔が見える。僕達の左側、4人でステップをあわせ、開襟シャツとビンテージ物と思われるスラックスを身に纏い、きっちりリーゼントを極めているのが、古株のローラーチームである、マジックトーンズだ。年はおそらく僕達よりも4.5歳上だろうか。僕らが秘かに対抗意識を燃やしているチームでもある。どうやら、向こうも僕達のせいでフロアの真ん中が取れなかったことが悔しいのか、時折目が合う。右側には、いつも一人で来て女性客を物色している、通称(僕達だけだが…以下同じ)エロ親父の姿も見える。その斜め後方には、身なりはぜんぜん普通のかっこで、それでもきっちりとステップを踏む、通称メガネコンビも来ている。この二人も、その風貌からは想像もできないが、基本的にはナンパが目当てのようだ。まともにステップを踏んでいるのは、見える範囲ではあるがそのぐらいで、あとは思い思いにステップを踏んだり、ジルバもどきのようなダンスを熟年カップルが踊っている。
ステージは通常4曲ほどダンスナンバーが続いた後、2曲スローナンバーが入り、その後再び4曲ほどダンスナンバーが続くというパターンだ。今回も、”ハロー・メリー・ルー”に続いて、エディ・ホッジスの”恋の売り込み”、ベンチャーズの”パイプライン”と続いて、スローナンバーへと移った。曲はプラターズの”煙が目にしみる”。
僕達は再び席に着いた。僕らにとって、スローナンバーはインターバルのようなものだ。もちろんチークを誘われるような事態が起これば、相手がおばさんであれ付き合うが、自分から誘うようなまねはしない。どうも、そういうのは苦手だ。
目を閉じて、プラターズの甘いハーモニーに耳を傾けていると、Mickyの声。
「マジックトーンズのやつら、ずっとこっちを見ていたのに気付いたか」
「おう。見てた見てた。癪に障る…」
受けたのはRichardだ。この3人の中で、一番気が短い。確かにあの4人は悪意のある目でこちらを見ていた。どうも新参者に近い僕らが、フロアの真ん中に陣取っているのが気に入らないらしい。だが、こちらから文句を言うのは、勘弁願いたい。喧嘩になって、店を追い出されたら、楽しい夜が台無しだ。最悪の場合、入店禁止になる事だってある。聞いた話では、通うようになった頃に良く見かけたが、ここ最近見かけない、ちょび髭の、通称まろは、喧嘩が原因で入店禁止になったらしい。そんなことは御免だった。それに、高校生でもあるまいし、目が合っただけで喧嘩を売るというのか。馬鹿馬鹿しい事この上ない。僕は目を閉じたまま、二人の会話を聞き流した。
二人がなんだかんだと言っているうちに、曲が終わった。女性ボーカルのMCの後、再び曲に移った。2曲目のスローナンバーはヘレン・シャピロの”悲しき片思い”。僕は吸い始めたころから愛煙しているPALL MALLにジッポーの火を近づけた。
*この小説はフィクションです。登場する人物・団体名は架空のものです。
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解説
・マジックトーンズ…
小説の敵役として登場するマジックトーンズ。名前の由来は、実は岡山ケントスのハウスバンドから来ている。というのも、書きながら、どんな名前にしようと考えていたが、いい名前が浮かばず、ホームページでバンドを検索して、目に止まったのがこのバンド名。じつは後で気付いたのだが、映画「ブルースブラザーズ」の中でも、その名前が登場している。その関係か、googleさんの検索サイトで、”マジックトーンズ”という言葉で検索された方が、何人かいたようだ。全く別物で、でスミマセン。
・PALL MALL…
実際にあるタバコの銘柄。1年前の値上げで、ほとんどの銘柄が300円の中、270円という安いタバコ。赤箱・青箱・緑箱とあり、赤が12mg、青が確か8mgのチャコールフィルターで、緑がメンソール。現在の自分の吸っている銘柄で、赤を吸っている。ちなみに、アニメ映画「ルパンⅢ世~ルパン対人造人間~」(マモーのやつ…)で、次元大介が吸っているタバコでもある。
以上
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