03.11.00:28
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07.04.00:06
小説 ~Lover Shakers~その3
店に入ると、ウェイターのいらっしゃいませの声と共に、ジョニーソマーズの包み込むような優しさの溢れる歌声が僕達を迎えてくれる。曲はもちろん彼女の代表曲である『ワン・ボーイ』だ。僕のお気に入りの曲でもあり、楽しい夜を、約束してくれているかのようだ。
ウェイターの案内で、僕らはステージ前の席に案内された。この場所は、踊るにはもってこいの場所だが、店が空いている場合は案内されることはまず無い。余りにステージが近すぎ、しかもステージが始まるとフロアに踊る人達が溢れ出し、踊らない人にとっては余り好ましく無い場所だからだ。つまり、今日はほぼ満員御礼と言うことだ。 金曜の夜と言うこともあるのだろう。お店としては万々歳なのだろうが、あまり人が多いのも、僕らとしては嬉しくは無い。もちろん閑古鳥が鳴いていると言うのはもっと困るが、普段はおとなしく飲んでいるだけの酔っ払いも踊りだし、フロアがすし詰め状態になり、好きに踊ることができないからだ。
ふと店内を見回して見る。この店の年齢層は、演奏されるのがオールディーズと言うこともあって、それなりに高い。20代、30台よりも、だんぜん40代、50代という感じの人が多い。それに、年齢層が高いという理由には、ただ酒を飲むだけが目的であれば、値段も高いと感じる所為かもしれない。僕らが40代、50代になる頃には、こういう店は無くなってしまうのではないだろうかという不安が、ふと頭をよぎる。だが、そんな考えはすぐに放念した。そんな事は、今はどうでも良い。
いつの間にかウィスキーのボトルやらグラスが用意され、ウェイターが水割りを作ってくれている。僕らがいつも口にしているのは、カナディアンクラブやジャックダニエルと言った、いわゆる安物である。いくら踊りで渇いたのどを潤すのが主な目的ではあっても、本当を言えば高いブランデーなども飲んでみたいのだが、僕らの懐事情では、とても手が出ない。今のように、毎週のように来ていればなおさらだ。
ウェイターに一通りオーダーを済ますと、僕らは乾杯の掛け声と共に、グラスを合わせた。時刻は7時50分。この日僕らにとっての最初のステージは、8時からだ。もうすでに体はうずうずしている。Mickyは落ち着いた様子で、今月何度も目にしているはずの、メニューを兼ねた、店の小冊子に目をやっている。Richardは、辺りを見回し、数少ない若い女性客を物色している様子だ。
そうこうしている内に、一人、また一人と、おなじみのバンドメンバーがステージにやってきて、音合わせを始めた。僕はもう、椅子を少し引いて、いつでも飛び出せる体勢に入る。最初の曲は、何だろう。僕としては、体をほぐす意味でも、ミディアムテンポのポップスナンバーが良い。いきなりRock’n Rollでも構わない。一番願い下げなのは、たまにあるスローナンバーからのスタートだ。この店では、客がリクエスト出来る様になっており、たまにリクエストが出たスローナンバーを、一発目に演奏することがあるのだ。
しばらくすると、店内の薄暗い照明がすっと消された。BGMもそれと共に、フェードアウトしてゆく。いよいよステージの始まりだ。僕は少し腰を浮かせた。
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*この小説はフィクションです。登場する人物・団体名は架空のものです。
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ウェイターの案内で、僕らはステージ前の席に案内された。この場所は、踊るにはもってこいの場所だが、店が空いている場合は案内されることはまず無い。余りにステージが近すぎ、しかもステージが始まるとフロアに踊る人達が溢れ出し、踊らない人にとっては余り好ましく無い場所だからだ。つまり、今日はほぼ満員御礼と言うことだ。 金曜の夜と言うこともあるのだろう。お店としては万々歳なのだろうが、あまり人が多いのも、僕らとしては嬉しくは無い。もちろん閑古鳥が鳴いていると言うのはもっと困るが、普段はおとなしく飲んでいるだけの酔っ払いも踊りだし、フロアがすし詰め状態になり、好きに踊ることができないからだ。
ふと店内を見回して見る。この店の年齢層は、演奏されるのがオールディーズと言うこともあって、それなりに高い。20代、30台よりも、だんぜん40代、50代という感じの人が多い。それに、年齢層が高いという理由には、ただ酒を飲むだけが目的であれば、値段も高いと感じる所為かもしれない。僕らが40代、50代になる頃には、こういう店は無くなってしまうのではないだろうかという不安が、ふと頭をよぎる。だが、そんな考えはすぐに放念した。そんな事は、今はどうでも良い。
いつの間にかウィスキーのボトルやらグラスが用意され、ウェイターが水割りを作ってくれている。僕らがいつも口にしているのは、カナディアンクラブやジャックダニエルと言った、いわゆる安物である。いくら踊りで渇いたのどを潤すのが主な目的ではあっても、本当を言えば高いブランデーなども飲んでみたいのだが、僕らの懐事情では、とても手が出ない。今のように、毎週のように来ていればなおさらだ。
ウェイターに一通りオーダーを済ますと、僕らは乾杯の掛け声と共に、グラスを合わせた。時刻は7時50分。この日僕らにとっての最初のステージは、8時からだ。もうすでに体はうずうずしている。Mickyは落ち着いた様子で、今月何度も目にしているはずの、メニューを兼ねた、店の小冊子に目をやっている。Richardは、辺りを見回し、数少ない若い女性客を物色している様子だ。
そうこうしている内に、一人、また一人と、おなじみのバンドメンバーがステージにやってきて、音合わせを始めた。僕はもう、椅子を少し引いて、いつでも飛び出せる体勢に入る。最初の曲は、何だろう。僕としては、体をほぐす意味でも、ミディアムテンポのポップスナンバーが良い。いきなりRock’n Rollでも構わない。一番願い下げなのは、たまにあるスローナンバーからのスタートだ。この店では、客がリクエスト出来る様になっており、たまにリクエストが出たスローナンバーを、一発目に演奏することがあるのだ。
しばらくすると、店内の薄暗い照明がすっと消された。BGMもそれと共に、フェードアウトしてゆく。いよいよステージの始まりだ。僕は少し腰を浮かせた。
*この小説はフィクションです。登場する人物・団体名は架空のものです。
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解説
・”ワン・ボーイ”…ハスキーな歌声が魅力的な、ジョニー・ソマーズの代表曲。日本でも大ヒットした。ストリングス(?)ではじまるイントロ、♪One boy one steady boy♪からはじまる、彼女の歌声はとても艶やかで、魅力的だ。
・メニューを兼ねた、店の小冊子…今は梅田ケントスでも見かけなくなったが、昔神戸ケントスにも置いてあった。オールディーズネタの様々な記事が書かれていて、メニューの枠を超えた、素晴らしい出来だったと思う。
今回も解説する部分は、こんな程度かなと感じている。また、不明な点があれば、書き込みお願いします。
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