03.11.03:34
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06.30.23:26
小説 ~Lover Shakers~その2
高速は、まるでのろまな現実を象徴するかのように、遅々として進まない。
ミッション車の、特に旧車のクラッチは重く、渋滞はさすがに堪える。だけど、いかにも乗せてもらっていますと言った、現在の電子制御で固められた車は、どうも好きになれない。どんなにうるさくても、クーラーが無くても、恒久的に染み出しているオイルの匂いが鼻についても、いや、だからこそ旧車が好きなのかもしれない。判で押したような、どれも代わり映えのしないデザインも気に食わない。新車と謳って登場するどれもが、僕にとってはどこかで見たことのある車に見えてしょうがないのだ。その点、この車は違う。だれがどう見たところで、他の車と間違えることは無い。いや、間違いようが無いといったほうが正しい。たとえその人が、フォルクスワーゲンタイプ2という名前を知らなくても、違う車の名前を口にすることはまず無い。それが、この車を選んだ最大の理由だ。
そんな僕のどうでも良い思考をよそに、カーステレオの中では、エルヴィスがお目当ての彼女を口説き、チャックベリーがベートーベンをぶっ飛ばし、コニーフランシスがヴァカンスを楽しんでいる。その歌声が、リズムが、苛立ちに身を委ねてしまいそうな僕を、FUNな世界に引き込んでくれる。
約1時間半かけて、集合場所であるいつもの1日1500円の駐車場に着くと、めずらしく、MickyもRichardも来ている。集合時間の10分過ぎにも関わらずだ。彼らは僕の学生時代からの親友だが、集合時間を過ぎても現れないことなどしばしばだ。Richardに限っては、いつまでたっても現れず、挙句の果てには「やっぱり行くのやめた」と言う事まである始末だ。僕が珍しくと思ったのはそのためだ。
Richardは勝ち誇ったかのように、遅いじゃないかと、僕の尻に蹴りを入れてくる。僕も、お前に言われたくは無いと、お返しに蹴りをくれてやる。Mickyは、説教くさい口調で、集合時間を守れと言っている。それに対して僕は、脇腹に一つ突きをかましてやる。
僕達のある種子供じみた挨拶が終わると、茜色から紫へと移り変わってゆく空の下を、3人並んで店のほうへと歩き出す。
3人とも揃って、時代錯誤とも言えるリーゼントをしてる。Mickyは古着屋で買ったお気に入りのジャケットの下に、白の開襟シャツを着て、同じくビンテージ物のスラックスを履いている。靴もビンテージ物で色は黒、先は尖っていて、底は滑りやすいように鋲が仕込んであるという優れものだ。メンバー中、彼の服装が一番金がかかっている。Richardは紺の開襟シャツに、下はジーンズ。靴は尖がってはいるが、実は裏はゴム底だ。メンバー中、彼のリーゼントが最もやる気が無い。もっとも本人は、上手くまとまらないのは髪質の所為だと言っている。
そんな希少生物のような3人が歩けば、目立たない訳が無い。あからさまに『何だあれは?』という視線を投げかけてくる人もいる。正直なところ、店ではともかく、外でこの格好は未だに慣れず、正直羞恥心を覚える。言うなれば、一昔前のアイドルが、ど派手なステージ衣装のまま町を歩くようなものだ。だが、店までの我慢だ。
店に着くころには、いつの間にか、夕闇が低く垂れ込めてきている。その闇の中で、”Live House DIANA”というネオンサインがひときわ魅力的に輝いている。
いよいよ夜が始まる。僕達のショータイムが始まるのだ。
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*この小説はフィクションです。登場する人物・団体名は架空のものです。
ネット小説ランキング>現代シリアス部門>「小説Lover Shakers」に投票 (月1回)
ミッション車の、特に旧車のクラッチは重く、渋滞はさすがに堪える。だけど、いかにも乗せてもらっていますと言った、現在の電子制御で固められた車は、どうも好きになれない。どんなにうるさくても、クーラーが無くても、恒久的に染み出しているオイルの匂いが鼻についても、いや、だからこそ旧車が好きなのかもしれない。判で押したような、どれも代わり映えのしないデザインも気に食わない。新車と謳って登場するどれもが、僕にとってはどこかで見たことのある車に見えてしょうがないのだ。その点、この車は違う。だれがどう見たところで、他の車と間違えることは無い。いや、間違いようが無いといったほうが正しい。たとえその人が、フォルクスワーゲンタイプ2という名前を知らなくても、違う車の名前を口にすることはまず無い。それが、この車を選んだ最大の理由だ。
そんな僕のどうでも良い思考をよそに、カーステレオの中では、エルヴィスがお目当ての彼女を口説き、チャックベリーがベートーベンをぶっ飛ばし、コニーフランシスがヴァカンスを楽しんでいる。その歌声が、リズムが、苛立ちに身を委ねてしまいそうな僕を、FUNな世界に引き込んでくれる。
約1時間半かけて、集合場所であるいつもの1日1500円の駐車場に着くと、めずらしく、MickyもRichardも来ている。集合時間の10分過ぎにも関わらずだ。彼らは僕の学生時代からの親友だが、集合時間を過ぎても現れないことなどしばしばだ。Richardに限っては、いつまでたっても現れず、挙句の果てには「やっぱり行くのやめた」と言う事まである始末だ。僕が珍しくと思ったのはそのためだ。
Richardは勝ち誇ったかのように、遅いじゃないかと、僕の尻に蹴りを入れてくる。僕も、お前に言われたくは無いと、お返しに蹴りをくれてやる。Mickyは、説教くさい口調で、集合時間を守れと言っている。それに対して僕は、脇腹に一つ突きをかましてやる。
僕達のある種子供じみた挨拶が終わると、茜色から紫へと移り変わってゆく空の下を、3人並んで店のほうへと歩き出す。
3人とも揃って、時代錯誤とも言えるリーゼントをしてる。Mickyは古着屋で買ったお気に入りのジャケットの下に、白の開襟シャツを着て、同じくビンテージ物のスラックスを履いている。靴もビンテージ物で色は黒、先は尖っていて、底は滑りやすいように鋲が仕込んであるという優れものだ。メンバー中、彼の服装が一番金がかかっている。Richardは紺の開襟シャツに、下はジーンズ。靴は尖がってはいるが、実は裏はゴム底だ。メンバー中、彼のリーゼントが最もやる気が無い。もっとも本人は、上手くまとまらないのは髪質の所為だと言っている。
そんな希少生物のような3人が歩けば、目立たない訳が無い。あからさまに『何だあれは?』という視線を投げかけてくる人もいる。正直なところ、店ではともかく、外でこの格好は未だに慣れず、正直羞恥心を覚える。言うなれば、一昔前のアイドルが、ど派手なステージ衣装のまま町を歩くようなものだ。だが、店までの我慢だ。
店に着くころには、いつの間にか、夕闇が低く垂れ込めてきている。その闇の中で、”Live House DIANA”というネオンサインがひときわ魅力的に輝いている。
いよいよ夜が始まる。僕達のショータイムが始まるのだ。
*この小説はフィクションです。登場する人物・団体名は架空のものです。
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解説です。
・エルヴィスがお目当ての彼女を口説き、チャックベリーがベートーベンをぶっ飛ばし、コニーフランシスがヴァカンスを楽しんでいる。
この文章は、全て曲の紹介です。オールディーズ好きならすぐに分かるでしょう。
・エルヴィスがお目当ての彼女を口説き…I wan't you I need you I love you(他にも色々あるので、想像と違ったらスンマセン。)
・チャックベリーがベートーベンをぶっ飛ばし…Roll over beethoven
・コニーフランシスがヴァカンスを楽しんでいる…Vacation
今回は、こんなもんかな?解説ほしい文章があれば、コメントください。
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