03.11.05:09
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06.24.00:07
小説 ~Lover Shakers~その1
むせ返るような、汗の染みこんだ作業着を脱ぎ捨て、終業の鐘の音と共に会社を飛び出した。初夏の日差しは夕暮れ時になってもいまだその勢いを衰えさせず、洗った顔に、再び汗がにじむ。
愛車である67年式フォルクスワーゲンタイプ2の、かかりの悪いエンジンに火を入れると、水平対抗4気筒エンジンの、ドコドコという独特の排気音が、今夜のハッピーな予感を抱かせてくれる。
そう。今夜は、仲間達といつもの店に集合することになっている。
店の名は、DIANA~ダイアナ~。
ポール・アンカの代表的なヒット曲と同名のその店は、毎夜オールディーズライブが行われている、ライブバーだ。僕達は、月に3.4回は、その店に足を運んでいる。
店では、座ってライブを聴きながら、バーボンのグラスを傾けている客も少なくは無いが、 僕達にとって、そんな行為は馬鹿げている。僕らの楽しみは、もっぱら踊ることにある。誰かに見てほしいわけでは無い。いや、綺麗な女の子に見られて、上手ですね等と言ってもらいたい下心も、少しはある。だが、目的の本質はそれではない。ただただ、踊ることが楽しくてしょうがないのだ。座っている連中も、腹の底では踊ってみたいと、ウズウズしているに違いない。ただ、羞恥心が邪魔をしているだけなのだ。
会社から家までの帰り道は、渋滞なしで20分。ドロドロと言う排気音と共に、カーステレオから流れてくるエディ・コクランのサマータイムブルースを聴きながら、車を走らせる。車は全く違うが、気分はアメリカングラフィティのビックジョンミルナーだ。渋滞も無く、車は予定通り家に着いた。
転がり込むように家に入ると、服を脱ぎ捨ててシャワーを浴びる。汗と鉄との入り混じった、血液を連想させるような匂いが洗い流されてゆく。本当に仕事から解放されたと、実感する一瞬だ。
赤い開襟シャツに袖を通し、洗いざらしのジーンズを履き、鏡の前に立つ。
入念に髪を乾かし、ヤナギヤのポマードを髪に塗りこんでゆく。ドライヤーとコームを使って髪を立ち上げ、これでもかと言うほどヘアスプレーをくれてやればリーゼントの完成だ。
映画ブルースブラザーズでおなじみのサングラス、レイバン・ウェイファーラー2をつけ、再び愛車に火を入れる。断っておくが、飲酒運転なんていう野暮なまねはしない。閉店時間である午前2時まで踊った後、愛車で眠るのが、いつものパターンだ。その為のワンボックス車でもある。
家から店までは、これまた渋滞が無ければ、1時間程。だが、夕方のこの時間帯では、渋滞を覚悟しなくてはならない。その間は、カーステレオから流れてくるオールディーズだけが、慰みだ。
*この小説はフィクションです。登場する人物・団体名は架空のものです。
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何となく、思い立って、解説をつけておきます。やる気がなくなったら、やめるかもしれません。あしからず。
・ライブハウス ダイアナの由来
僕が静岡県浜松市に、転勤で行った時に見つけた、地元のライブハウスがその名の由来。中身のイメージは、まるっきり神戸ケントスです。神戸ケントスは無くなっていますが、ケントスグループ自体は健在なので、名前を変えました。
・ヤナギヤのポマード
実際にあるポマードです。僕自身も愛用しています。おそらくポマードの中で、もっともポピュラーなブランドで、たいていの薬局・ホームセンター等においています。大小と2サイズあって、大が780円程度。最近見ないが、小が600円ぐらいだったと思う。実名を出しても、構わないだろうと思い、無断で書いてしまった。(マズイかな?)ちなみに、本当か嘘かは知らないが、矢沢栄吉さんも愛用している(いた?)らしいです。
・映画「ブルースブラザーズ」
故ジョン・ベルーシ演じるジェイク・ブルースとダン・エイクロイドが演じるエルウッド・ブルース、合わせてブルースブラザーズというブルース・バンドが、孤児院を救う為に奮闘する、アクションあり、ダンスあり、もちろん歌あり、笑いありの、アクションコメディー。物語りも楽しいが、音楽とダンスは必見。しかも音楽界の大物が出演。アレサ・フランクリン、故キャブ・キャロウェイ、故ジェームス・ブラウン、故レイ・チャールズ。彼らの歌声を聞くだけでも、十分満足できる作品です。一度ご覧あれ。
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