03.10.23:17
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07.26.23:28
小説 ~Lover Shakers~その18
「成る程な」
男性は、妙に納得がいったというような顔で、短くそれだけ言った。
「僕達も、すこし調子に乗っていたところがあったのかもしれません。そういう意味では、身から出た錆ですね」
僕が付け加えたこの言葉に、男性が勢いよく反論した。
「ここは皆が楽しみに来るところだ。それを調子に乗っているだの、なんだのと言う方がどうかしている。君らが気に止むことなど無い」
言い終わると、勢いよく僕の背中を叩いた。口ぶりからして、マジックトーンズと男性の間にも何か因縁があるようにも感じたが、それを口にするのは、差し出がましいようでやめておいた。
「なんだ、グラスが空じゃないか。遠慮するな」
突然男性はそう言うと、僕のグラスに自分のボトルの酒を注いでくれた。僕は、恐縮しながら自分で氷とミネラルウォーターをいれた。男性とグラスを合わせ、グラスを傾けながら、チラリとボトルのラベルを見て、僕は飛び上がりそうになった。マーテルのVSOP。この店で確か一番高い酒だ。僕はのどに流し込むのが名残惜しくて、しばらく口の中で甘く香るブランデーの味を楽しんでいた。
僕とその男性は終電前まで共に飲み、そして踊った。男性のダンスは動きこそ控えめだが、しっかりとステップを踏み、ツイストさえ見事に踊って見せた。神戸ダイアナには、相当通っている事が窺える。いや、年齢から考えて、もっと別な形でダンスと触れ合ってきたのかも知れない。ともあれ、僕と男性は年齢を超えて、友人になれた気がする。こういう出会いがあるのなら、一人で来るのも悪くない。もっとも、毎回こういう出会いがあるとは思えないが。
電車も同じかと思ったが、彼はもともと阪神沿線であり、しかも今日はタクシーで帰ると言う事だった。
別れ際、彼は少しはにかんだ様な笑みを見せた。
「神戸の件、少しお節介を焼いても良いかな」
男性の言葉の意味を読み込むのに、少し時を要した。男性はそれを、僕が躊躇していると取ったのか、再び口を開いた。
「まあ、良い結果が出るとは限らないが、君らを神戸で見られなくなるのは、寂しい気がしてね」
僕達にとっては、願っても無い言葉だった。再び神戸ダイアナで踊ることが出来る。考えただけで、僕の胸は躍っていた。
もちろん、男性にどれだけの事が出来るのかはわからない。ぬか喜びになる可能性は、十分にある。だが、何の根拠も無いにもかかわらず、僕は男性に全幅の信頼を置き、揺ぎ無い信用を感じていた。
僕は男性に何度も礼を言い、頭を下げ続けた。
男性は最後に僕に自分の名詞を渡し、終電に遅れるぞと言って、僕を送り出してくれた。時計に目をやると、すでに終電まで十分を切っている。最後に僕は今日の礼を言って、駆け出した。
胸の鼓動が高鳴っているのは、駆けているからだけではない。これから起こる奇跡の予感に、打ち震えているのだ。
こんな時間でなければ、間違いなく、僕はMickyと、Richardに電話していただろう。彼らがこの話を聞いたとき、どんな顔をするのか。想像しただけで、頬が緩んだ。
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*この小説はフィクションです。登場する人物・団体名は架空のものです。
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男性は、妙に納得がいったというような顔で、短くそれだけ言った。
「僕達も、すこし調子に乗っていたところがあったのかもしれません。そういう意味では、身から出た錆ですね」
僕が付け加えたこの言葉に、男性が勢いよく反論した。
「ここは皆が楽しみに来るところだ。それを調子に乗っているだの、なんだのと言う方がどうかしている。君らが気に止むことなど無い」
言い終わると、勢いよく僕の背中を叩いた。口ぶりからして、マジックトーンズと男性の間にも何か因縁があるようにも感じたが、それを口にするのは、差し出がましいようでやめておいた。
「なんだ、グラスが空じゃないか。遠慮するな」
突然男性はそう言うと、僕のグラスに自分のボトルの酒を注いでくれた。僕は、恐縮しながら自分で氷とミネラルウォーターをいれた。男性とグラスを合わせ、グラスを傾けながら、チラリとボトルのラベルを見て、僕は飛び上がりそうになった。マーテルのVSOP。この店で確か一番高い酒だ。僕はのどに流し込むのが名残惜しくて、しばらく口の中で甘く香るブランデーの味を楽しんでいた。
僕とその男性は終電前まで共に飲み、そして踊った。男性のダンスは動きこそ控えめだが、しっかりとステップを踏み、ツイストさえ見事に踊って見せた。神戸ダイアナには、相当通っている事が窺える。いや、年齢から考えて、もっと別な形でダンスと触れ合ってきたのかも知れない。ともあれ、僕と男性は年齢を超えて、友人になれた気がする。こういう出会いがあるのなら、一人で来るのも悪くない。もっとも、毎回こういう出会いがあるとは思えないが。
電車も同じかと思ったが、彼はもともと阪神沿線であり、しかも今日はタクシーで帰ると言う事だった。
別れ際、彼は少しはにかんだ様な笑みを見せた。
「神戸の件、少しお節介を焼いても良いかな」
男性の言葉の意味を読み込むのに、少し時を要した。男性はそれを、僕が躊躇していると取ったのか、再び口を開いた。
「まあ、良い結果が出るとは限らないが、君らを神戸で見られなくなるのは、寂しい気がしてね」
僕達にとっては、願っても無い言葉だった。再び神戸ダイアナで踊ることが出来る。考えただけで、僕の胸は躍っていた。
もちろん、男性にどれだけの事が出来るのかはわからない。ぬか喜びになる可能性は、十分にある。だが、何の根拠も無いにもかかわらず、僕は男性に全幅の信頼を置き、揺ぎ無い信用を感じていた。
僕は男性に何度も礼を言い、頭を下げ続けた。
男性は最後に僕に自分の名詞を渡し、終電に遅れるぞと言って、僕を送り出してくれた。時計に目をやると、すでに終電まで十分を切っている。最後に僕は今日の礼を言って、駆け出した。
胸の鼓動が高鳴っているのは、駆けているからだけではない。これから起こる奇跡の予感に、打ち震えているのだ。
こんな時間でなければ、間違いなく、僕はMickyと、Richardに電話していただろう。彼らがこの話を聞いたとき、どんな顔をするのか。想像しただけで、頬が緩んだ。
*この小説はフィクションです。登場する人物・団体名は架空のものです。
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