03.10.20:43
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07.24.23:03
小説 ~Lover Shakers~その17
スローナンバーの後のラスト三曲は振るっていた。まずはジェリー・リールイスの”グレート・ボールズ・オブ・ファイア(火の玉ロック)”。続いて、エディー・コクランの”サマータイム・ブルース”と来て、最後にチャック・ベリーの”ジョニー・ビー・グッド"。全てロックンロールであり、さらに言えば、全てお気に入りの曲だった。
中でも火の玉ロックは、僕の最も好きな曲である。僕の又の名であるJerryという名前も、このジェリー・リールイスから来ている。僕にとっては、いわばテーマソングのようなものだ。あの驚くほどのスピードで演奏されるピアノサウンドに、僕はぞっこん惚れ込んでいた。
良い汗を掻いてトイレによった後、再び席に戻ると、僕から一つ席を空けたところに、一人の男性が座っていた。年は恐らく四十半ば、渋いメガネをかけた、同姓の僕が言うのも何だが、なかなかのダンディな男性だった。よく目にする、酔っ払いのおじさんとは、一線を画している。遊びなれた、大人の男性という印象だった。どうやらステージの最中に来店したらしい。もちろんこういう知らない人と、席を並べるのは初めてであり、僕は少し緊張を覚えた。僕はいわゆる、人見知りをするタイプなのだ。
僕は一応、その男性に軽く会釈をした後、席に着き、渇いた喉に水割りを流し込んだ。そして、意味もなくメニューに目を通したり、タバコに火をつけたりと、落ち着きなくしていた。
僕が穴が開くほど眺めたメニューを置き、辺りに視線を向けたときだった。ふいにその男性と目が合った。
しまったと思ったがもう遅かった。その男性が顔に似合った落ち着きのある声で、僕に話しかけてきていた。
「違ったら申し訳ないが、神戸でも見かけた気がするんだが、人違いかな」
「はい。大阪は今日が初めてです」
僕は、やむなく答えた。知らない人と話をするのは、気を使う分だけ疲れるので、余り好きではない。二,三言話をして、早々に話を切り上げようと考えていた。
男性は、ゆったりとした口調ながら、饒舌に話し始めた。私も神戸のほうが、よく行っている。今日は知り合いと会う用事で大阪に来たので、こちらに来たのだという。僕達のことは、神戸ダイアナに行くたびに、ほぼ毎回のように目にしていたのだという。いつも楽しそうに、そして上手くステップを踏んでいるという印象を、持ってくれていたらしい。
僕は話に合わせて相槌を打ち、最後に有難う御座いますと言って、笑顔で頭を下げた。僕らのダンスを見て、覚えていてくれる人がいたということが、素直に嬉しかったのだ。
「今日はどうして大阪に?それも一人で」
男性は当然覚えるであろう疑問を、僕に投げかけてきた。現金だと言われればそれまでだが、僕の緊張も、喜びと共に徐々に解け始めていた。
僕は正直にこれまでのいきさつを語ったが、僕達を陥れた張本人が、マジックトーンズであろうことは伏せておいた。何も証拠が無い以上、名指しするのはどうも憚られたからだ。男性は僕の話を聞きながら、眉をひそめていた。
「本当に思い当たることは無いのかい」
男性の言う、思い当たるということが、僕達がそういう事と取られる事をしていないのかという事なのか、そんな目にあう心当たりが無いのかと言う事を言っているのかが分からなかったので、僕は素直に聞き返した。
男性は、後者のほうだと答えた。
僕はマジックトーンズのメンバーに、よく思われていない様だという事だけを答え、断言することはやはり避けた。
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*この小説はフィクションです。登場する人物・団体名は架空のものです。
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中でも火の玉ロックは、僕の最も好きな曲である。僕の又の名であるJerryという名前も、このジェリー・リールイスから来ている。僕にとっては、いわばテーマソングのようなものだ。あの驚くほどのスピードで演奏されるピアノサウンドに、僕はぞっこん惚れ込んでいた。
良い汗を掻いてトイレによった後、再び席に戻ると、僕から一つ席を空けたところに、一人の男性が座っていた。年は恐らく四十半ば、渋いメガネをかけた、同姓の僕が言うのも何だが、なかなかのダンディな男性だった。よく目にする、酔っ払いのおじさんとは、一線を画している。遊びなれた、大人の男性という印象だった。どうやらステージの最中に来店したらしい。もちろんこういう知らない人と、席を並べるのは初めてであり、僕は少し緊張を覚えた。僕はいわゆる、人見知りをするタイプなのだ。
僕は一応、その男性に軽く会釈をした後、席に着き、渇いた喉に水割りを流し込んだ。そして、意味もなくメニューに目を通したり、タバコに火をつけたりと、落ち着きなくしていた。
僕が穴が開くほど眺めたメニューを置き、辺りに視線を向けたときだった。ふいにその男性と目が合った。
しまったと思ったがもう遅かった。その男性が顔に似合った落ち着きのある声で、僕に話しかけてきていた。
「違ったら申し訳ないが、神戸でも見かけた気がするんだが、人違いかな」
「はい。大阪は今日が初めてです」
僕は、やむなく答えた。知らない人と話をするのは、気を使う分だけ疲れるので、余り好きではない。二,三言話をして、早々に話を切り上げようと考えていた。
男性は、ゆったりとした口調ながら、饒舌に話し始めた。私も神戸のほうが、よく行っている。今日は知り合いと会う用事で大阪に来たので、こちらに来たのだという。僕達のことは、神戸ダイアナに行くたびに、ほぼ毎回のように目にしていたのだという。いつも楽しそうに、そして上手くステップを踏んでいるという印象を、持ってくれていたらしい。
僕は話に合わせて相槌を打ち、最後に有難う御座いますと言って、笑顔で頭を下げた。僕らのダンスを見て、覚えていてくれる人がいたということが、素直に嬉しかったのだ。
「今日はどうして大阪に?それも一人で」
男性は当然覚えるであろう疑問を、僕に投げかけてきた。現金だと言われればそれまでだが、僕の緊張も、喜びと共に徐々に解け始めていた。
僕は正直にこれまでのいきさつを語ったが、僕達を陥れた張本人が、マジックトーンズであろうことは伏せておいた。何も証拠が無い以上、名指しするのはどうも憚られたからだ。男性は僕の話を聞きながら、眉をひそめていた。
「本当に思い当たることは無いのかい」
男性の言う、思い当たるということが、僕達がそういう事と取られる事をしていないのかという事なのか、そんな目にあう心当たりが無いのかと言う事を言っているのかが分からなかったので、僕は素直に聞き返した。
男性は、後者のほうだと答えた。
僕はマジックトーンズのメンバーに、よく思われていない様だという事だけを答え、断言することはやはり避けた。
*この小説はフィクションです。登場する人物・団体名は架空のものです。
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