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  • 03/10/20:11

07.27.23:44

小説 ~Lover Shakers~その19

 電車に飛び乗った僕は、奇跡をもたらしてくれるであろう、あの男性の名詞を見た。よく考えれば、名前さえ知らなかったのだ。名前は、清水と名刺に書いてあった。名詞には貿易会社の名前が記されており、名前の横には小さく代表取締役と書いてある。僕を驚かせたのは、名詞には会社の電話番号のほかに、携帯電話の電話番号が書いてあったことだ。この当時の携帯電話は現在とは比べ物にならないほど高価なものだった。電話機自体が十万円近くしていた時代だ。とても一般庶民の持つものではない。さすがは社長だと、ただただ感心するほかなかった。

 翌日、僕はMickyとRichardに招集をかけた。理由はとりあえず伏せておいた。二人の驚く声だけでなく、顔を見たかったからだ。
 集合場所は僕達がたまに足を運ぶ、オールディーズバー”ピンクルージュ”。オーナーの村田さんは、シボレーベルエアに乗っている、筋金入りのロックンローラーだ。それほど通っていない僕らだが、オールディーズを愛する者として、いつも村田さんは温かく迎えてくれる。僕らにとっては、良い兄貴分のような存在だ。
 夕暮れ時に店に着いてドアを開けると、すでにMickyとRichardはすでに店に入っていた。カウンター席に座り、村田さんを相手に、神戸ダイアナの一件を、愚痴っぽく話しているところだった。
 僕はわざと落ち着いた調子でRichardの隣に腰を下ろした。
「聞いたよ。なんだか大変なことになってるね」
 村田さんが心配そうにそう言った。僕は「まあね」と、いかにもそうでも無いといった雰囲気をかもし出しつつ、ウィスキーの水割りを注文した。銘柄は通称CC、カナディアンクラブの白ラベル。いわゆる安物の酒だ。
 とりあえず僕達は乾杯してから、グラスを傾け、残暑の厳しさにやられた喉を潤した。
「大阪ダイアナはそんなに良かったのか」
 余りに平静な僕に、Mickyが訝しげに聞いてきた。それにかぶせる様に、Richardのいかにも面白く無いといった声。
「良かろうが悪かろうが、そんな所まで俺は行かないぜ」
 僕はわざと焦らす様に、ポールモールを取り出し火を点けると、上に向けて勢い良く煙を吹き出した。それから、二人の顔に視線を戻した。二人はいつもと違う僕の様子に、訝しげな表情だ。僕は二人の表情に満足していた。
「大阪は悪くなかったよ。でも僕は行かない」
「どういう事だよ」
 端から行く気の無いRichardはともかく、Mickyは不審顔でそう尋ねた。
 僕はもう一度タバコをふかした後、二人に事の経緯を得意げに語った。二人は神妙な顔つきで話に聞き入っていたが、話が終わっても表情が変わることはなかった。いくらまだ結果が出ていない話とは言え、笑みすら見せない二人の表情は、僕にとって全くの予想外だった。


 
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*この小説はフィクションです。登場する人物・団体名は架空のものです。

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