03.10.16:56
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12.31.18:00
小説~Lover Shakers~Outside Storys Vol.2 80回目
ステージが終わった後、カウンターの中に彼らの姿を見つけていた。そう。Lover Shakersの2人だ。彼らが僕に気付いているかどうかは分からなかったが、こうしてここにいる以上、彼らもまた、僕にとって越えなければならない壁の一つであることは確かだった。
僕は3人に断りを入れて席を立った。そのまま真っ直ぐにカウンターを目指した。不思議と何の気負いも、不安も感じられない。顔見知りに挨拶を入れに行くような心持だった。
僕が挨拶と共にお詫びを述べた後、最初に口を開いたのはMickyだった。
「おかえり。思ったより早かったね」
僕にとってこれ以上は無い言葉だった。恐らく彼の胸の傷は癒えていないだろうに、何の蟠りも感じさせない、爪の先程の皮肉もこめられていない言葉だった。
「あの3人は…」
彼の問いかけに、僕は一も二も無く答えた。躊躇いも、恥じらいも感じることなく。
「親友です」
「そうか。良かったね」
どうやらそれだけで、彼には通じたようだった。あの3人が、僕が憎悪を抱いていた3人だということを。だが、それ以上彼は詮索の手を伸ばそうとしない。それだけでも、十分彼の人柄がうかがえた。今更ながら、1週間前彼に取った行動が悔やまれ、僕は再び頭を下げていた。
「いいさ。今君が楽しんでるのならそれで良い」
顔を上げると、これまでそっぽを向いていたRichardが僕の目を見ていた。
「俺も同感だ。そう言えば、お前、Jerryが俺達の事を裏切ったと言ってたが、そりゃ違うぜ」
彼の言葉の行き着く先が読めずに返事に窮している僕だったが、そんな事にはお構いなしで、彼は続けた。
「あいつは昔、入店禁止になってな。それ以来、住所不定の小説家になっちまったのさ。でも、あいつは行く先々の町で踊ってる。もちろんこの街に帰ってきた時もな」
「入店禁止?どうしてですか?」
驚く僕に、Mickyが答えた。
「どっかの馬鹿が、奴のブルースェードシューズを踏んだ。奴はそいつを殴っちまった」
「え?それだけで?」
あまりに軽い理由に驚き、上ずった声を上げた僕をRichardが笑った。
「ば~か。比喩だよ」
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