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  • 05/16/00:11

07.21.00:06

小説 ~Lover Shakers~その13

 あれから一週間と一日。ぼくはあの日と同様、ダイアナに向けて車を走らせていた。今週は仕事が忙しく、金曜も残業があったために、土曜日に変更したのだ。
 土曜とは言え、夕方の阪神高速は、行楽帰りや、夜の街に繰り出す車でごった返している。早めに出たので遅れる事は無いだろうが、渋滞自体があまり気持ちのいいものではない。エアコンなどと言う近代装備の無いワーゲンタイプ2ではなおさらだ。
 僕はイライラを紛らわせる為に、愛煙しているポールモールに火をつけた。煙さえもこの暑さのせいで気だるそうに、ゆっくりと窓の外へ出てゆく。カーステレオからは、リトル・リチャードの”キープ・ア・ノッキン”が、さらに僕の心を急き立てるように、絶叫を続けている。
 渋滞は柳原を越えた辺りで、徐々に解消されてゆき、三角窓からさわやかな風が舞い込んでくる。僕達の夜はもうすぐだ。
 
 いつもどおり駐車場に集合した僕達は、いつも以上の高揚感をそれぞれの胸に秘めていた。もちろん先週の夜の記憶が、僕達に高揚感をもたらしているのは、言うまでも無い。
 素晴らしい夜は、もう約束されているも同然だった。先週の夜の再来、いやそれ以上の夜が待っていると、信じて疑わない僕達がいた。
 その証拠に、Richardのリーゼントは、明らかにいつもより決まっている。しかも靴は新調しており、恐らくは革底だ。つま先とかかと部分が深い赤で、その外は白という、なんとも派手な靴だった。もちろん先は尖っている。Mickyも服装こそ普段と変わらないが、三人の中では一番大人びている彼が、少々はしゃぎ気味だ。
 かくいう僕も、今日は以前気に入って買ったが、少々派手すぎて、どうしても着る事のできなかった、黒地に袖と襟の部分が黄色、バックには”Rock’n Roll”の文字が派手に刺繍されているシャツを着ている。髪のセットにもいつもの五割り増しの時間をかけていた。明らかに、先週までの僕達ではない。何か言いようの無い自信と、誇りを手にした僕達がそこにいた。
 これまで、少なからず羞恥心を抱いていた、店までの道のりも、顔を上げ、胸を張って歩くことが出来た。見る人によっては、どこかのチンピラのように見えたかもしれない。だが、今日の僕達には、そんな視線さえ気にならなかった。
 先週同様、夕闇が垂れ込めてきた頃に、僕達は店の前に着いた。胸を膨らませ、ともすれば口から飛び出してきそうな期待を押し留めつつ、僕らは襟を正して、店のドアを開けた。
 地下へと続く階段を降り、もう一度ドアを開けると、ビートルズの”ツイスト・アンド・シャウト”が僕達を出迎えてくれた。軽快なリズムとジョン・レノンの少ししゃがれた歌声が、僕達の鼓動を、否応無しに早める。
 いらっしゃいませの声の変わりに、僕達の耳に飛び込んできたのは、この店の店長、室井さんの「Lover Shakersのみなさんですね」だった。僕達のチーム名が、早くも店に浸透している。僕達はまさに有頂天の絶頂だった。

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*この小説はフィクションです。登場する人物・団体名は架空のものです。

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