04.28.04:18
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07.22.22:54
小説 ~Lover Shakers~その15
僕達に残された道は、ほかのライブハウスを探すと言う道だけだった。だが、それは容易な道のりではなかった。ダイアナはこの神戸随一のライブハウスだった。確かに他にもライブハウスはある。ダイアナに次ぐ店舗といえば、同じ三宮にあるブルースエウェードシューズ。そして余り知られてはいないが、長田にあるパーキンス。さらに足を伸ばせば、大阪の梅田にも、ダイアナの店舗があるにはある。だが、大阪はいかんせん遠すぎる。
そこで、まず僕らが目指したのは、ブルースウェードシューズだった。
この店は、六甲山系の麓にある某有名ホテルの中にある店舗だ。それだけに、ノーネクタイでは入店不可能と言う、店の決まりがある。僕達は慣れないスーツに身を包み、息苦しさを押し殺しながら、その店に入った。
確かに、中身はダイアナと代わり映えはしない。バンドの演奏も申し分ない。だが、やはりスーツというスタイルが、ネクタイに締め上げられた首筋のように、僕達の心を圧迫した。Mickyは仕事柄、常にスーツを着ているので慣れてはいるようだったが、僕は工場勤め、Richardは市の環境局、いわゆるゴミ処理場で働いていることもあって、スーツなど日常では全く着ない。二度三度と足を運んでは見たものの、結局慣れることが出来ずに、僕達はたちまち音を上げた。
次に足を運んだのは、もちろんパーキンスだ。だが、この店は知名度が低いことを裏付けるかのように、金曜の夜でも客足はまばらで、どうやって運営しているのかが不思議なほどの店だった。店内のインテリアも場末のキャバレーを彷彿させる様なもので、そんな店では当然ハウスバンドも、やる気が見られない。僕達は、たった1ステージで、逃げるように退散した。やはり、流行っていない店には、それ相応の理由があるのだと、妙に納得してしまった。
夏の終わりを思わせる、少し涼しさが増した夜の街を、心に北風を吹かせながら、僕達は歩いた。やはり、ダイアナが一番だった。そう改めて実感したとき、今更ながら、悔しさがこみ上げてきた。Richardは、もう他の店を探すのはうんざりだと顔に表しながら歩いている。Mickyも絶望の色は隠せない。約一月かけた、新天地探しがこの結果では無理も無かった。
「もう、梅田しかないか…」
Mickyが、もはや止む無しといった口調で、そう呟いた。梅田とは、もちろん大阪ダイアナの事である。だが、もともとめんどくさがり屋のRichardは、その距離に難色を示し、余り乗り気ではなさそうだった。同じ系列店とは言え、店の雰囲気が違う可能性だってある。わざわざ行って、また失敗と言う状況を考えただけで、気が沈むのだろう。
「ちょっと、考えさせてくれ」
けっきょくRichardから出た答えは、ほとんどNoといえるものだった。
次の週の土曜日、僕は一人電車に揺られていた。向かうは大阪。もちろん大阪ダイアナである。移動手段に車を選ばなかったのは、駐車料金等の相場が、全くつかめていないと言うのが、一番の理由だった。それに、今日は一人である。Richardは言うまでも無く不参加で、Mickyもどうしても外せない予定のせいで、参加できなかったのである。
大阪ダイアナに行くのは、無論初めてである。希望と不安が渦まく中、ぼくは場所こそ違えど、同じダイアナに行くと言う事に、少なからず興奮を覚えていた。だが、ここ一ヶ月に他の店舗に行ったときと同様、どこか敵地で試合をするプロ野球チームのメンバーのような心境だった。もちろん僕の想像の中の話では有るが。
店には事前に問い合わせをして場所を聞いていたために、殆ど迷うことなく辿り着くことができた。だが、やはり大阪である。人の多さは神戸の比ではない。やはり敵地と言うこともあって、僕の時代錯誤なスタイルに注がれる視線も、神戸よりも痛いような気がする。一人と言うこともあって、恥ずかしさは、さらに倍増している。僕は殆ど逃げ込むように、店のドアを開けた。
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*この小説はフィクションです。登場する人物・団体名は架空のものです。
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そこで、まず僕らが目指したのは、ブルースウェードシューズだった。
この店は、六甲山系の麓にある某有名ホテルの中にある店舗だ。それだけに、ノーネクタイでは入店不可能と言う、店の決まりがある。僕達は慣れないスーツに身を包み、息苦しさを押し殺しながら、その店に入った。
確かに、中身はダイアナと代わり映えはしない。バンドの演奏も申し分ない。だが、やはりスーツというスタイルが、ネクタイに締め上げられた首筋のように、僕達の心を圧迫した。Mickyは仕事柄、常にスーツを着ているので慣れてはいるようだったが、僕は工場勤め、Richardは市の環境局、いわゆるゴミ処理場で働いていることもあって、スーツなど日常では全く着ない。二度三度と足を運んでは見たものの、結局慣れることが出来ずに、僕達はたちまち音を上げた。
次に足を運んだのは、もちろんパーキンスだ。だが、この店は知名度が低いことを裏付けるかのように、金曜の夜でも客足はまばらで、どうやって運営しているのかが不思議なほどの店だった。店内のインテリアも場末のキャバレーを彷彿させる様なもので、そんな店では当然ハウスバンドも、やる気が見られない。僕達は、たった1ステージで、逃げるように退散した。やはり、流行っていない店には、それ相応の理由があるのだと、妙に納得してしまった。
夏の終わりを思わせる、少し涼しさが増した夜の街を、心に北風を吹かせながら、僕達は歩いた。やはり、ダイアナが一番だった。そう改めて実感したとき、今更ながら、悔しさがこみ上げてきた。Richardは、もう他の店を探すのはうんざりだと顔に表しながら歩いている。Mickyも絶望の色は隠せない。約一月かけた、新天地探しがこの結果では無理も無かった。
「もう、梅田しかないか…」
Mickyが、もはや止む無しといった口調で、そう呟いた。梅田とは、もちろん大阪ダイアナの事である。だが、もともとめんどくさがり屋のRichardは、その距離に難色を示し、余り乗り気ではなさそうだった。同じ系列店とは言え、店の雰囲気が違う可能性だってある。わざわざ行って、また失敗と言う状況を考えただけで、気が沈むのだろう。
「ちょっと、考えさせてくれ」
けっきょくRichardから出た答えは、ほとんどNoといえるものだった。
次の週の土曜日、僕は一人電車に揺られていた。向かうは大阪。もちろん大阪ダイアナである。移動手段に車を選ばなかったのは、駐車料金等の相場が、全くつかめていないと言うのが、一番の理由だった。それに、今日は一人である。Richardは言うまでも無く不参加で、Mickyもどうしても外せない予定のせいで、参加できなかったのである。
大阪ダイアナに行くのは、無論初めてである。希望と不安が渦まく中、ぼくは場所こそ違えど、同じダイアナに行くと言う事に、少なからず興奮を覚えていた。だが、ここ一ヶ月に他の店舗に行ったときと同様、どこか敵地で試合をするプロ野球チームのメンバーのような心境だった。もちろん僕の想像の中の話では有るが。
店には事前に問い合わせをして場所を聞いていたために、殆ど迷うことなく辿り着くことができた。だが、やはり大阪である。人の多さは神戸の比ではない。やはり敵地と言うこともあって、僕の時代錯誤なスタイルに注がれる視線も、神戸よりも痛いような気がする。一人と言うこともあって、恥ずかしさは、さらに倍増している。僕は殆ど逃げ込むように、店のドアを開けた。
*この小説はフィクションです。登場する人物・団体名は架空のものです。
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