03.10.17:19
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07.29.23:17
小説 ~Lover Shakers~その20
「神戸に戻れるかもしれないんだぜ。嬉しくないのかよ」
僕は、二人の余りの仏頂面加減に、たまらずそう尋ねた。
「Jerryは人が良いからな。ただの調子のいいオジサンに乗せられただけじゃないのか」
Richardは、どうやら清水さんの事を、端から信用していないらしい。Richardは友人や血縁関係にあるものに対しては寛容だが、見ず知らずの他人に対しては、過剰なほど排他的な一面がある。ある意味、Richardらしい反応といえた。
「それは言いすぎじゃないのか」
余りに否定的な意見に、Mickyが助け舟を出してくれた。Richardは不機嫌そうに、愛煙しているラークマイルドを大きくふかした。
僕が少し胸をなでおろしたのもつかの間、Mickyから出た次の言葉は、けして肯定的なものではなかった。
「その清水さんという人が、本当に何かをしてくれるとしても、ただの客でしかない人に、何が出来るんだろうか」
Mickyの言うことはもっともだった。僕もその点は考えてみた。だが、答えは見つかっていない。自分が清水さんの立場だった場合に、打つ手が見当たらないのだ。彼が探偵などの特殊な職業の人間ならまだしも、貿易会社の社長というだけでは、今回の件に関して言えば、何の役にも立ちそうに無い。僕の心の中の希望という名の風船が、急速に萎んで行くのを感じて、返す言葉がなかった。
「その人、清水って言ったっけ」
急に村田さんが口を挟む。どうやら、他の客の注文をこなしつつも、僕たちの話に耳をそばだてていたらしい。僕は力なく「はい」と答えた。
村田さんは、その人の風貌を事細かに、僕に聞いてきた。村田さんの話す清水さんの風貌は、僕の中にある記憶とほぼ酷似していた。
「その人はマジックトーンズにダンスを教えた人じゃないかな。たしか若い頃に、グリースっていうチームのリーダーだった人だよ」
何のことは無い。清水さんは、マジックトーンズにとって兄貴分のような存在なのだ。そんな人間が、彼らにとって不利になる行動を起こすだろうか。肯定的に考えれば、弟分の不始末をたしなめるとも考えられる。だが、彼は恐らくマジックトーンズの言い分も聞くだろう。その時、嘘でも彼らがもっともな言い分を言えば、そちらに傾くのが人情というものだろう。僕の心の中で、希望が木っ端微塵に砕けるのを感じた。
Richardは、「それ見たことか」と言い、Mickyもまた「あまり期待しないほうがよさそうだ」という結論を出した。
「Richardは大阪にはどうしても行く気が無いのかよ」
「たまになら良いけど、毎週は嫌かな。遠いし、面倒くさいぜ」
二人の会話は、すでにその先へと進んでいる。だが、この話題にも、答えは見つからないだろう。
いや、もう答えは出ているのかもしれない。近場のライブハウスでの活動が無理な今、走り始めたばかりのLover Shakersの道は、突然現れた断崖絶壁にどうすることも出来ないでいる。見える答えは、「解散」の二文字だけのように思われた。もっとも解散したからと言って、僕たちの友情が崩れることは無いのかもしれない。僕たちはライブハウスを通じて知り合った友人ではない。ダンスは僕たちが見つけた、一つの遊びのスタイルでしかないからだ。
だがその反面、ライブハウスとダンスは、遊びの一つと割り切れるほど、僕たちの中で小さく無い事もまた事実だ。いや、正確に言えばMickyとRichardの本心はいざ知らず、少なくとも僕にとってはそうだ。たとえ二人が通うことを止めたとしても、一人でも僕は通い続けるだろう。そうなれば、何となく二人とも疎遠になってしまうかもしれない。僕の心の中には、すでに寂しげな秋風が吹き始めていた。
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*この小説はフィクションです。登場する人物・団体名は架空のものです。
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僕は、二人の余りの仏頂面加減に、たまらずそう尋ねた。
「Jerryは人が良いからな。ただの調子のいいオジサンに乗せられただけじゃないのか」
Richardは、どうやら清水さんの事を、端から信用していないらしい。Richardは友人や血縁関係にあるものに対しては寛容だが、見ず知らずの他人に対しては、過剰なほど排他的な一面がある。ある意味、Richardらしい反応といえた。
「それは言いすぎじゃないのか」
余りに否定的な意見に、Mickyが助け舟を出してくれた。Richardは不機嫌そうに、愛煙しているラークマイルドを大きくふかした。
僕が少し胸をなでおろしたのもつかの間、Mickyから出た次の言葉は、けして肯定的なものではなかった。
「その清水さんという人が、本当に何かをしてくれるとしても、ただの客でしかない人に、何が出来るんだろうか」
Mickyの言うことはもっともだった。僕もその点は考えてみた。だが、答えは見つかっていない。自分が清水さんの立場だった場合に、打つ手が見当たらないのだ。彼が探偵などの特殊な職業の人間ならまだしも、貿易会社の社長というだけでは、今回の件に関して言えば、何の役にも立ちそうに無い。僕の心の中の希望という名の風船が、急速に萎んで行くのを感じて、返す言葉がなかった。
「その人、清水って言ったっけ」
急に村田さんが口を挟む。どうやら、他の客の注文をこなしつつも、僕たちの話に耳をそばだてていたらしい。僕は力なく「はい」と答えた。
村田さんは、その人の風貌を事細かに、僕に聞いてきた。村田さんの話す清水さんの風貌は、僕の中にある記憶とほぼ酷似していた。
「その人はマジックトーンズにダンスを教えた人じゃないかな。たしか若い頃に、グリースっていうチームのリーダーだった人だよ」
何のことは無い。清水さんは、マジックトーンズにとって兄貴分のような存在なのだ。そんな人間が、彼らにとって不利になる行動を起こすだろうか。肯定的に考えれば、弟分の不始末をたしなめるとも考えられる。だが、彼は恐らくマジックトーンズの言い分も聞くだろう。その時、嘘でも彼らがもっともな言い分を言えば、そちらに傾くのが人情というものだろう。僕の心の中で、希望が木っ端微塵に砕けるのを感じた。
Richardは、「それ見たことか」と言い、Mickyもまた「あまり期待しないほうがよさそうだ」という結論を出した。
「Richardは大阪にはどうしても行く気が無いのかよ」
「たまになら良いけど、毎週は嫌かな。遠いし、面倒くさいぜ」
二人の会話は、すでにその先へと進んでいる。だが、この話題にも、答えは見つからないだろう。
いや、もう答えは出ているのかもしれない。近場のライブハウスでの活動が無理な今、走り始めたばかりのLover Shakersの道は、突然現れた断崖絶壁にどうすることも出来ないでいる。見える答えは、「解散」の二文字だけのように思われた。もっとも解散したからと言って、僕たちの友情が崩れることは無いのかもしれない。僕たちはライブハウスを通じて知り合った友人ではない。ダンスは僕たちが見つけた、一つの遊びのスタイルでしかないからだ。
だがその反面、ライブハウスとダンスは、遊びの一つと割り切れるほど、僕たちの中で小さく無い事もまた事実だ。いや、正確に言えばMickyとRichardの本心はいざ知らず、少なくとも僕にとってはそうだ。たとえ二人が通うことを止めたとしても、一人でも僕は通い続けるだろう。そうなれば、何となく二人とも疎遠になってしまうかもしれない。僕の心の中には、すでに寂しげな秋風が吹き始めていた。
*この小説はフィクションです。登場する人物・団体名は架空のものです。
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